中村一義 Debut 20th Anniversary Special Site

「最高築」初回限定プレミアム盤付属 佐内正史写真集「中義」スペシャル企画
佐内正史氏 「中義」インタビュー
文:山内宏泰

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佐内正史

1968年静岡県生まれ
95年度写真新世紀優秀賞受賞。
写真集『生きている』(青幻舎/1997年)で鮮烈なデビューを果たす。
03年私家版『MAP』(佐内写真事務所/2002年)で木村伊兵衛写真賞を受賞。
08年に独自レーベル「対照」を立ち上げて私家版写真集を発表し続けている。
只今、新作目下制作中。

<写真展情報>

東京都写真美術館 総合開館20周年記念 TOPコレクション
「いま、ここにいる」 平成をスクロールする 春期
2017/5/13(土)〜7/9(日)
詳細はこちら

 初回限定プレミアム盤に付された佐内正史写真集「中義」は、66ページに及ぶ大部のもの。20年来、撮る・撮られる関係を続けてきた佐内正史と中村一義のあいだには、膨大な写真の蓄積がある。それらの写真をすべて見返しセレクトして、プリントも新たに焼き、一冊の本がまとめ上げられた。

 中村一義が「最高築」で自作を再構築したように、佐内正史も、これまで撮ってきた写真の再構築を試みたわけだ。

「いまの時点で組んだから、写真のセレクトや並びはこうなった。明日つくるとしたら、まったく違うものになるかもしれないね。それは中村君の『最高築』も同じなんだろうけど」

 ふたりはデビューの時期がほぼ同じ。写真と音楽、ジャンルは違えど、ともに歩んできたという実感がある。

「いっしょにやってきたっていう感じは強いですよ。いまもそうだけど、昔なんかは特に、ふたりでひとつのバンドをやっているみたいな気持ちがあった。中村君の音楽はおれの作品でもあるし、おれの写真は中村君のものでもある、というような」

 折に触れ繰り返されてきた撮影は、ふたりの作品をつくるという意識でいつも臨んだ。だから、どの写真にもたっぷり話すべきことがある。

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たとえば表紙を飾っている一枚は、ふたりが出会ってまもないころに撮られたもの。

「中村くんの家に近い川の土手ですね。初めて行った場所だったことは覚えてる。早朝、まだ真っ暗なうちに集合して、しばらくしたら海のほうから太陽が出てきて、だんだんじわじわとものが見えてきた。雲のあいだから光が差して、サッカーゴールが順光に照らされた。あ、と思って写真を撮った。地面の色が緑とか黄、赤、いろいろあってきれいだね。印刷も、インクが盛ってあっていいんじゃないかな」

 インクが「盛ってある」とは、紙の上にインクがたっぷりのった状態を指す印刷業界用語。発色がくっきりしているとの意だ。画面が奥へ向かって広がりを持っていて、観る側としては、視線がすっと吸い込まれていくのが快い。

「たしかに、奥に広い写真。たまにこういうのも撮ります。でも、ほんとはあまり深みを出したいとは思わないんだけど。ぽん、と撮っただけという写真が好きだから。遠近法だとか思想みたいなものが写真に入ってくるのはイヤなんですよ」

 いかにも「表現をしています」といった、かっこよさげな雰囲気の写真になってしまうのは避けたいということか。では、「ぽん、と撮っただけの写真」とはどんなものだろう。その格好の例が、今回の写真集のなかに収められている。川向こうに工場の見える写真がそれだ。

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「表紙の写真は広がりがあるし、『ああこういうところ、なんか知ってる』って人に思わせるところがあるけど、工場が写っているこっちの写真は、もっとずっと狭い世界で、奥行きもない。ぱっとしない感じがする。だれだって毎日が、そんなにぱっとしているわけでもないじゃないですか。せいぜい、ちょっと夕陽があたってきれいだなとか思うくらいで。そういうところが写っているかなと思う。こういうなんでもない、ただ撮った、という写真がおれは好きですね」

 写真集のなかには、中村一義のポートレートもたくさん入っている。デビュー前からつい最近の姿までが写っているのだけれど、顔やスタイルがあまり変わらなくて驚く。ただし写真としては、ひじょうにバリエーション豊かだ。

「最初に出てくる、土手でギターを持っている中村君は、『男はつらいよ』の寅さんのイメージ。青いバックシートの前で撮ったのは、免許に使う証明写真みたいになってる。『対音楽』のときにベートーヴェンのデスマスクといっしょに撮ったのは、中村君もベートーヴェンぽく撮ったんだよね。最後の一枚も中村君が写っていて、まるでダメっていうか、そのままというか、これも寅さんに近い感じがあるかな。いろんな中村君が入ってます」

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写真とは、時間を止めて平面にしてしまうもの。この写真集には、佐内正史と中村一義が過ごした20年が、再構築されて一冊のなかに封じ込めてある。ファンならアルバム『最高築』は幾度も幾度も聴くもののはず。同じように写真集も、何度も開いてみるのがおすすめ。そのつど、違った印象を持って写真が目に飛び込んでくるはずだ。