 |
 |
 |
 |
 |
カナダの大西洋側に位置する、人口90万人のノヴァ・スコシア州。ケープ・ブレトンは、州の北東部の位置する島だ。
本土とはケーリー・トレイルという道路で結ばれ、首都ハリファックスから島唯一の空港シドニーまで約50分かかる。ノヴァ・スコシア州は、カナダで最も早く入植が始まった地域。最初の入植者は、1605年にファンディ湾に到着したフランスからの500名だった。ケープ・ブレトンには数千年前から住む先住民族、ミクマック族がいたが、そこにスコットランドから初めての移民が渡ってきたのが1629年。スコットランドからの移民の多くは、故郷では暮らしていけない諸事情を抱えていた。その後、1700年代にフランス系のアカディア人が移住。以来ミクマック族、スコットランド人、アカディア人、この3民族が主にケープ・ブレトンの文化、伝統、習慣を作り上げてきた。18世紀以降もイギリス、アイルランド、ドイツ、ウェールズ、カリブ、中近東など、世界各地から、開拓者として、また炭鉱労働者として、大勢の移民がケープ・ブレトンに渡ってきた。
現在、島の基幹産業だった炭鉱は閉鎖。人口は、減少しつつある。面積6500平方キロメートルの小さな島だが、ケープ・ブレトンは多民族が暮らす島。そして、スコットランドのハイランド地方によく似た地形のケープ・ブレトンは、“世界で最も眺めの美しい島”としても知られている。
|
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
そのブームも落ち着いた2003年、これまであまりスポットが当てられなかったケルト文化圏最後の土地、ケープ・ブレトンから素晴らしいアーティストを紹介できることになった。
97年にフィドラーのアシュレイ・マックアイザックがデビューするなど、全く注目されなかったわけではないが、ほとんどのアーティストがインディーズと契約していることもあって、なかなかチャンスに恵まれなかった。加えて、他の土地のように音楽があまり商業ベースとなっておらず、“キッチン・パーティー”をはじめとする生活の中で楽しむ存在であること。それがなかなか輸出されなかった理由のひとつだろう。
 |
 |
写真提供協力:カナダ観光局 |
しかし、これが反対に伝統音楽が昔のままのスタイルで残されている要因にもなっている。今ではケープ・ブレトンの本家筋にあたるスコットランドから伝統歌を習いにくるアーティストがいるほどだ。つまりは、コンテンポラリーに彩られていない、オリジナルに近いケルティック・ミュージックに触れられるというわけだ。
とは言っても、単に伝統を継承している人ばかりではない。スロンチャ・バー(SLAINTE MHATH)のようにロックの要素を加えるなど、アプローチの方法はそれぞれ。若いバンドの多くは、躍動感溢れるコンテンポラリーな演奏を披露する。ただし、スロンチャ・バーにしてもバグパイプ奏者をフィーチャーするなど、あくまでもルーツを重視。これが今ケープ・ブレトンに注目したい一番の理由であり、可能性だ。
|
|
 |
 |
 |
1700年代になると、スコットランドから多くの移民が渡ってきたが、彼らの大半は、故郷を追われるようにしてやってきた人達だった。彼らにとって故郷を思う、望郷の気持ちは強く、同時に多民族が暮らすケープ・ブレトンにおいて、自分達の伝統文化は、大切なアイデンティティでもあった。
他のケルト文化圏を見ると、時代の流れの中で一度衰退を経験し、60年代以降にリバイバルしている。そのため失われた歌は少なくないし、復活する過程でコンテンポラリーな要素が加えられることもあった。
それに比べると、ケープ・ブレトンには昔ながらの伝統音楽が今も色濃く残っている。その理由のひとつが島の環境にある。1955年にノヴァ・スコシア本土からのカンソ・コーズウェイが完成するまで、本土との行き来はフェリーに頼るしか方法がなかった。最初の移民から3世紀以上に渡り、ケープ・ブレトンは、隔絶された土地だった。それがオリジナルに近い形で、伝統文化が継承されるのに貢献している。
今ではその古いケルティック・ミュージックを学びに、ルーツであるスコットランドからミュージシャンが訪れる逆転現象が起きている。ケープ・ブレトンの大学では夏になると、ケルトの伝統文化を教える2週間の短期講座が毎年開かれるが、そこには大人に限らず、10代など若い世代も学びにきているそうだ。
|
|
 |
 |
 |
都会から隔絶された土地。それがケープ・ブレトンの伝統を守る一因となってきたが、さらに伝統文化を継承する場所が家庭内にあったことが大きい。それがゲール語で“ケーリー(celidh)”といわれる“キッチン・パーティー”だ。
“キッチン・パーティー”とは文字どおりキッチンで開かれるパーティーのこと。ケープ・ブレトンの一般家庭は、アメリカのような大きな家ではなく、キッチンも比較的狭い。それでも、ティータイムなどにはそこにおばあさんから孫まで3世代以上が集い、おしゃべりから始まって、自然に歌と演奏へと発展していくことになる。そこに登場する楽器は、フィドル、ホイッスル、ボーラン、ギターといったアコースティック楽器。それらに合わせてみんなが歌い、盛り上がってくれば、『リバーダンス』のような足だけを動かす独特のハイランド・ダンスを踊り始める人もいる。また、楽器がなくても、スプーンを2本合わせれば、パーカッションに早変わりするし、床を足で踏み鳴らせば、それだってリッパな楽器のひとつになる。
この楽しいキッチン・パーティーが長年、伝統継承の場となってきた。もちろん今でも各家庭で盛んに行われている。
|
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
伝統音楽が今も人々の生活の中で生きているケープ・ブレトンだが、ここ数年は、10月に開催されるフェスティヴァル“ケルティック・カラーズ”が音楽に限らず、スコットランドの伝統文化を盛り上げるのにひと役買っている。
このフェスティヴァルにはケープ・ブレトン以外にスコットランド、アイルランド、アメリカ、ブルターニュ、カナダ、ガリシアなど世界各地から300名以上のアーティストが参加する。コンサートは、島内に点在するホールからクラブまで30の会場に分かれて行われる。参加者は、ミュージシャンに限らず、ダンサー、ストーリーテラー、シンガーと幅広く、コンサート以外にワークショップも開催される。その規模は、ケルティック関連の中では世界最大といわれている。
|
 |
●ナタリー・マクマスター(ケープ・ブレトン)
●デイヴ・マックアイザック(ケープ・ブレトン)
●シァン・ジェームス(ウェールズ) 他
|
 |
詳しくは、フェスティヴァルのホームページまで。>> www.celtic-colours.com
|
 |
|
|
 |
 |
  |