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SAKANATRIBE 2014 -LIVE at TOKYO DOME CITY HALL- | SAKANACTION

INTERVIEW

サカナクションにとってのBlu-rayというパッケージの重要性

interview1

--先日のアートブック取材(Blu-ray初回生産特典に掲載されているプロデューサー野村達矢氏との対談)では、全国ツアー『SAKANATRIBE 2014』について振り返ってもらいましたが、今回は、そのライブを収めたこの映像作品についてお話しを伺います。まず率直に、本作品が完成して、今の率直な気持ちは?

山口:今回、特に強く思ったことは、ぜひたくさんの人に、Blu-rayを手にして欲しいということです。なぜかと言うと、「Standard Edition」と「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」、この2つを見比べて欲しいという気持ちが、すごく強いんです。両方を見て、初めて分かることがメチャクチャたくさんあると感じていて。だからできれば、1枚で両方を見れるBlu-rayで見て欲しいなと思っています。それに、特典のアートブックも、手に取ってみて欲しいですし。

--104Pというボリュームの凝りに凝ったアートブックも、Blu-rayのみの付属ですからね。

山口:そうなんですよ。ここでの歌詞の置き方とか、映像とはまた違った手法でライブを表現しているので、これを手にしながらBlu-rayを見るのもいいんじゃないかって思っています。純粋に、アートブックそのものが、いい作品に仕上がっていますからね。ただ現実には、DVDしか見れないという環境の人もいるでしょうから、そこは僕らもケアできるように、DVDの方は価格をリーズナブルに設定して、「Standard Edition」と「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」を個別の商品として発売するようにしました。これまでにサカナクションのライブを見たことのある人なら「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」、今回、初めて僕らのライブ映像を買うというという人だったら、まずは「Standard Edition」で、普通にライブを見て楽しんでもらうのがいいかなって思っています。

--そこまでBlu-rayを勧める一番の理由は何ですか?

山口:実際に映像作品を作って分かったことなんですけど、Blu-rayの記録容量って、DVDと比較すると、ハンパなく大きいんですよ。DVDに入れられるデータの量が、例えば日本酒のお猪口くらいだとすると、Blu-rayって、ビールジョッキ、しかも中ジョッキくらいあるわけです(笑)。そうすると、当然、いい音やいい映像を、たくさん入れられるわけですよ。作り手としてはやっぱり、いい音といい映像をたくさんの人に届けたいですからね。

--特にサカナクションの作品となれば、いい音で、しっかり音楽を楽しんで欲しいですよね。

山口:映像はもちろんだけど、それ以上に、音ですよね。そこをきちんと表現するためにも、Blu-rayはすごく重要なパッケージだなと思いました。

--一部のパソコンや、プレイステーションなどでもBlu-rayは再生できますから、「DVDしか見れない と思っている方も、一度、自宅の環境を確認してみて欲しいですね。それに、いずれはBlu-rayプレーヤーも買おうと思っているのであえば、このタイミングで思い切ってプレーヤーを買っちゃって、絶対に損はないと思いますよ。

山口:そうですよね。…なんだか、Blu-rayの宣伝ばかりして申し訳ないですけど(笑)、でも特典映像が収録されているのも、Blu-rayだけですからね。それも、記録容量の問題からなんですけど、これ、すごく充実してますよね。布施さんは、特典映像(『グルーヴ”が”サカナクション・サウンド”になるまでの《0から100》メンバー解説』)の収録に、立ち会ってくれたんですよね?

--はい。光栄にも声をかけていただいて、ちょっとだけ解説映像のディレクションっぽいことをさせていただきました(笑)。

山口:ありがとうございました。で、どうでした? 布施さんも、メンバーがあんな風に楽器をプレイして、それを真近でリアルに見るのって、初めて?

--初めてですよ。もちろん、ライブは何度も見ていますし、CDもかなり細かく聴き込んでいますけど、目の前で各メンバーが個別に演奏しながら、ポイントを解説してくれるなんて、初めての機会でしたし、知らないことが本当にたくさんあって、とても貴重な体験でした。僕が質問するのも変な話ですけど(笑)、山口さんは、特典映像を見ていかがでしたか?

山口:すごく面白かったですよ。それに、分かりやすかったし。楽器を知らない人でも、見入ってしまう面白さが十分にあると思いました。それは、例えば4人のプレイのスゴさもそうだし、あと、メンバーの表情だったり。やっぱり4人とも、雑誌のインタビューだとか、テレビに出ている時とは違う、なんて言うか、“仕事の顔”をしていて(笑)、そこが見られるだけでも、すごくよかったと思っています。もちろん、テクニカル面での“タネ明かし”というか、「サカナクションって、PCと同期して演奏してるけど、それって一体どういうことなんだろう?」って思ってる人や、「どの音が生演奏で、どの音がPCで鳴らしているんだろう?」といったことも、楽器をやってる人なら、「こういう風に演奏してるのか!」っていうことが分かると思うし。この特典映像を、作ってよかったなって思いました。

--メンバーによる解説部分は、これ単体でも十分に商品化できるくらいのクオリティと充実度ですよね。

山口:そうだし、こういう物を作ることも大事なんだなって感じましたね。作って、きちんと残すことが。一過性の物じゃなくてね、自分達の作品の一部として作って、残すことで、いつかこれを見直した時に、やっぱり面白いなって感じられると思うんですよ。

--特典映像では、バンド・スタイルの「夜の踊り子」と、DJスタイルによる「Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-」を解説していますけど、これを見た後にライブ本編を見直すと、やっぱり目と耳のいき所が変わってくるんですよ。それも、面白い経験でした。

ロックとダンス・ミュージック、エレクトロニカの要素を内包した「サンプル」の《0から100》

山口:布施さんは今回のツアーで、いろんな会場に見に来てくれたじゃないですか。全部で何公演でしたっけ?

--ツアー初日のCLUB CITTA'、1月のZepp Tokyo、2月の金沢、3.11のZepp Tokyo、それとTOKYO DOME CITY HALLの5公演です。

山口:すごっ(笑)。僕ら、1曲目の「サンプル」で《0から100》をやったじゃないですか。何の説明もなく、最初にあの演奏を聴いて、どう感じました?

--最初に聴いたのは、ツアー初日(CLUB CITTA'公演)でしたが、まずは無音の状態でメンバーがステージに出てきたことに驚いて。あと、普段はたいてい、フロアの後方でステージ全体を見ているんですが、この日は何か間違って、ほぼ最前列近くまで行ってしまったんですよ(笑)。そうしたら、静かに演奏が始まって、岩寺さんがギターのボリューム・ペダルを踏み込む前、つまり、ギター・アンプからまだ音が鳴ってない段階で、弦をピックで弾く“生音”が聴こえてきたんです。これには、相当驚きました。ただその時は、最前列付近だから、ここまで小さな音まで聴こえるんだと思ったんですね。だけど、次第に「あれ?そうじゃないぞ」と思い始めて。

山口:なるほど。「サンプル」は、ツアーをやっていく中でアレンジも変化して、それが自分達の中でどんどんまとまっていって、最終的にTOKYO DOME CITY HALL公演、さらにはツアー・ファイナルまでつながっていったということが面白かった。ああいうアレンジの曲を、新しく作りたいと思っていて、それで今、いろいろと画策しているんですよ。

ロックとダンス・ミュージックとエレクトロニカって、それぞれテリトリーが別物なんですね。まあ、ダンス・ミュージックとエレクトロニカは、密接に隣り合っているという感覚がありますけど、ダンス・ミュージックとロックって、最近でこそ「ダンス・ロック」なんていう風にも言われますけど、でもグルーヴという点で、ちょっと違うんです。だけど今回の「サンプル」は、ロックだし、オルタネイティブだけど、ちゃんとダンスだったり、テクノだったり、エレクトロニカだったりといった、いろんな要素を内包させることができたと思っていて。こういった曲が、今のサカナクションの新しい音楽として表現することができたら、次のステージにいけそうな気がしているんです。過去の曲で言うと、「INORI」や「ストラクチャー」で、ダンス・ミュージックと歌モノを融合させたいと思っていた感覚、そのひとつのアンサーとして、今回の「サンプル」のアレンジは、僕らにとってすごく重要だったと思っています。

--しかも、「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」を見るとよく分かりますが、山口さんのボーカルに、PA佐々木幸生さんが手動で、リアルタイムにディレイをかけたりして、ダブ・ミックス的な手法も取り入れていましたよね。

山口:そこが、クラブ感覚なんですよ。僕ら目線で言うと、リスナーをどんどん“ハメていく”っていう。それでいて、ロックから受ける“ハマる”感覚も、「サンプル」では共有できたんじゃないかって思っています。

--観客としては、確かに音とグルーヴにハマらないことには、オープニングでいきなり15分を超える演奏が始まって、それを最後まで集中して聴くのは難しいですよね(笑)。だけど、実際に客席で聴いていた時は、こんなに長かったなんてまったく思わなくて、後から時間を知って、ビックリしました。

山口:やってる自分達も「今日は何分だった?」みたいな感覚でしたよ(笑)。でもやっぱり、最初のリハーサルでアレンジを練っている時は、いろんな恐怖がありましたよ。ちゃんと《0から100》が伝わるかっていう不安もあったし。だけどお客さんは、みんな一生懸命ついてきてくれた。お客さんの集中力って、本当にすごかったですね。だって、このオープニングは、異様な緊張感でしたもんね。咳をしたら怒られそうなくらい(笑)。それで気が付いたら、15分が過ぎているっていう。みんながずっと、音について来てくれたっていうのは、僕にとっても貴重な体験でした。

“裏側”を見せていくことの真の意味

--「サンプル」で表現した《0から100》は、本当に見事だったと思いますが、ただ、それを映像作品で表現するのは、相当な難しさがあったんじゃないですか?

山口:「サンプル」の映像について、映像を担当してくれた山口保幸監督と最初に話したのは、ワンカメの引きの映像から始まって、一切編集をせずに、曲に合わせて少しずつ、だんだんステージにズームしていって、最後の最後に、僕のギター・アンプの上に寄り切って終わる、そういったアートの方向性でのアイデアだったんです。ただそれは、映像作品としてライブを見せるには、ちょっとやり過ぎだろうという理由で却下になったんだけど、でもイメージの原点はそれだったんです。ライブの時に、お客さんが音にハマっていく様子を、映像でも表現したくて。そういう発想から、「じゃあ、曲の冒頭はモノクロで始めよう というような流れで作っていきました。 ただ、音に関しては、こればかりはどうしようもないんですね。ライブ会場にいた人が体験した音のダイナミクス、それと同じものを、Blu-rayで再現することは不可能だ、と。じゃあ、ライブとは違った解釈で、ライブと同じイメージを表現するにはどうしたらいいかと考えて、冒頭の音は、各メンバーの足元にiPhoneを置いて、レコーディング・アプリを使って録った音を混ぜたりしているんです。その音から始まって、収録用のマイクで録った音が重なって、どんどんと音が広がっていく。そういったダイナミクスで表現してみました。

--そうだったんですね。サカナクションは、そういった“裏側”を、以前から積極的にリスナーに伝えてきましたが、音楽や演出、つまりアートを説明するという行為について、山口さんは、どのように考えていますか? 今回の映像作品の根幹にも関わる部分だと思うので、あえて質問させてください。

山口:確かに、説明されるのが嫌だとか、裏側を知らないで純粋にエンタテインメントだけを楽しみたいっていう人がいるのは、もちろん分かっています。だけど僕達は、裏側を知ることで、音楽をもっと面白く感じられたり、さらに違う音楽を知りたいと思う人達に対して、ベクトルを向けているんです。なぜなら、それを知らせることが僕らの“表現”だし、そこを理解してくれている人達が、サカナクションの音楽を聴いてくれていると思っているから。 アルバム『DocumentaLy』の初回限定盤で、「エンドレス」の制作風景のドキュメンタリーを見せた時は、「葛藤してる姿は見たくない」っていう意見が、結構あったんですよ。だけど、むしろそこを見せることこそが、僕らにとって音楽の表現になっているのだから、裏側を見せられることが苦手と言われるのは、僕らの曲が苦手だって言われているのと、同じくらいの感覚なんです。それでも、ライブ後にPAさんとかが、お客さんから「お疲れ様でした」とか、「最高でした」って声をかけられることが増えたっていう話を聞くと、僕は裏側を見せてよかったと思うし、音楽に関わる裏側の仕事を意識するリスナーが増えてきていることを、嬉しく感じています。ただ、今回の「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」は、そこまで深い話をしなくても、純粋にひとつの作品として十分に面白いものになっていると思うし、そこのバランスも取れていると感じているので、全然大丈夫だと思っているんですけどね。

--そういった裏側を見せて、しかもそれをエンタテインメントとして成立されられるって、どのバンドでもできることではないですよね。サカナクションだからこそ、できることだし、やる意義があると思います。そういったサカナクションのDNAが、多くの音楽ファンに少しでも継承されることで、きっと新しい音楽が生まれてくると、僕は本気で思っています。

山口:リスナーを「育てる」って言うと、ちょっとおこがましいですけど、「共感」してもらいたいなっていう気持ちなんです。だって、音楽に限らず、モノ作りには何でも、表側とはまったく違う裏側が、必ずあるじゃないですか。何か素晴らしいと感じるものがあった時に、多くの場合、「それがなぜ素晴らしいのかということは、とても難しいことなんですね。でも、その難しいことが理解できないことには、本当の意味で、その素晴らしさも理解できないと思うんです。だから世の中には、難しくないファンシーなものが蔓延するし、そういったカルチャーが生まれるわけです。だけど、そういうカルチャーだけではない、“素晴らしさ”の難しい部分を理解してもらうための中間地点、そこをエンタテインメントとして存在させることができたら、きっと「こっちの裏側はどうなっているんだろう?」だとか、「自分は何に対して感動しているんだろう?」っていうことを考え始める、クリエイティブな人達が生まれてくるはずなんです。僕らは、ほんの一部でいいから、その礎になりたいという単純な想いだけなんですよ。それをね、高尚に「みんなを育ててやるよ」とかって言うんじゃなくて、「一緒に知って、一緒に楽しもうよ」っていう気持ち。一緒に知っていくこと自体が、もう“表現”なんだ、と。そこが、僕らが音楽を作るモチベーションになっていますし、それを分かってもらえたら、すごくやり甲斐を感じます。

--そこまで強い意志を持って、しかも積極的に「知って欲しい」と思うようになった、何か具体的なきっかけがあったのですか?

山口:それは、自分が音楽業界で活動するようになって、「裏側はこうなってるんだ」っていう、ものすごい衝撃を受けたからですよ。それまで“音楽”と思っていたものが、ほんの一部分でしかないことを知って、ガーンとショックを受けたんです。だからこそ、裏側を知ったうえで表側を見たら、もっと面白いよって感じるわけです。それと同時に、サカナクションが今の音楽シーンの中で、これだけ多くの人に見てもらえる状況になれたことに対する、ひとつの責任感でもあるんです。でも、そんなに難しく考えてるわけではないんですよ。一緒に音楽を楽しんでいる人(ファン)に、「これ、面白いよ!」って言った時に、同じように「面白いね!」って感じて欲しいじゃないですか。そのためには、「これを知っておくと、きっと面白く感じるはずだ」ということを伝えたくて、その素材を自分達で作っているという感覚なんです。

--よく分かりますし、僕も同感です。…とは言え、特典映像的な“オマケ”ではなく、ライブの裏側にスポットを当てた「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」を単体商品化するというのは、かなり思い切ったアプローチですよね(笑)。

山口:これが、もしアルバムのリリース・ツアーの映像作品だったら、おそらく、こういう形にはできなかったと思います。今回の企画は、そもそもNHKさんに、 BSでライブ番組を放送して頂くというところから話がスタートしたんです。その段階で、ライブの裏側を映像に組み込んで見せるというアイデアがあったんですね。じゃあ、それを商品化しようという流れだったわけです。だからこそ、こういう作品を形にできたし、これって奇跡に近い出来事だったと感じています。さらに、普通にライブを楽しんでもらえる「Standard Edition」もセットになっているわけですからね。「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」がすごく注目されていますけど、ライブそのものも、今回のセットリスト(収録曲)は、僕らとしては“ベスト盤”的な気持ちが強いですし、過去曲をリアレンジすることで、ちゃんと“今の”サカナクション・サウンドにもなっていますし。それに何よりも、『SAKANATRIBE』というタイトルでの最初のツアーですからね。これが次の僕らのレイヴ・パーティ『SAKANATRIBE』にどうつながっていくのかっていう意味でも、重要な作品です。そのレイヴ・パーティも、来年くらいに開催できたらいいなと思ってます。

音楽の体感をサポートするサカナクション・ライブの演出

--本作品には、本当にいろんなシーンが、いろんな手法で収められていますが、山口さんは完成した映像を見て、どのようなシーンが印象に残りましたか?

山口:音と映像を含めて、自分がグッと入り込むのは「流線」ですね。「流線」の場面は、カラコレ(カラー・コレクション/映像の色彩を補正する作業)で、ライブの冒頭とは、色合いをガラッと変えているんです。だから、気付かないうちに色の変化に自分が連れていかれて、そのクライマックスが「流線」なので、一番印象に残るんです。普通、カラコレと言うと、作品の最初から最後まで、トータルで「こういう色味で見せよう」と調整するものなんですよ。でも今回は、曲によって色味を微妙に変えてもらったりしたので、監督は、かなり大変だったと思います。そういった編集側の目線で言っても、「流線」の映像は秀逸だと思いますし、ライブの構成的にも、みんなを音にどっぷりとハメていく、本編でのひとつの大きなポイントが、この曲だったんです。

--なるほど。あと個人的には、マルチ・スクリーンの面白さも改めて感じました。

interview2

山口:マルチ・スクリーンって、今後、もっと発展していける、未来のある映像技法ですよね。それも含めて映像作品って、どんどん進化していくジャンルなんだなって、今回、改めて感じました。そもそもライブの映像作品って、ライブを映像化しようとする時点で、大きな矛盾が出てくるわけですよ。だって、“ライブ”って、“ライブ”でないと体験できないものなんだから、それを映像化するなんて、そもそも無理があるわけです。だからそこで、じゃあ何を、どう違った形で表現したらいいのかと考えていくわけで、そこは、テクノロジーの進化によって変化していくんです。例えばね、3Dや4K映像が一般的になれば、当然、映像表現も変わってくるだろうし。理想は、自分がその場にいるような感覚になれることですよ。音のサラウンドやバイノーラル・サウンドだけじゃなくて、映像も、自分の目線で、どこでも好きなところを見れるような状態。そんなテクノロジーが生まれたら、10年後、20年後の映像作品がどうなるのか、すごく楽しみですね。

だから、この作品も“完成形”ではなくて、“ベース(基礎)”なんです。時代によって表現技法が変わっていく中で、「僕らは、こういう表現に取り組んでいます」という意思を示した作品集と言っても、いいかと思います。だから僕らも、もっとこうしたいと思う部分はたくさんありますし、みなさんには、次のライブ映像作品はどうなっていくのか、楽しみにしていて欲しいですね。

次のアルバムとか、まだ全然できてないけど(笑)、でも、どんなリリース・ツアーになるか、すごく楽しみですよ。いつか、アリーナ・ツアーができるようになったらいいですよね。それが実現できたら、大きな規模でライブを考えられるようになるわけだから、当然、演出も変わってくるだろうし、予算が増えれば、映像コンテンツの可能性だとか、やれることも広がっていくだろうし。本当に、楽しみです。

--実現が楽しみですね。そうやって演出の規模が大きくなっていった時に、音楽と演出のバランスについては、どのような点を意識していますか?

山口:例えば、アルバムのリリース・ツアーであれば、先に曲があって、曲を聴いてライブに来てもらうわけだから、リスナーが最初に曲を聴いた時に抱いたイメージと、あまりにかけ離れてしまうような過剰な演出ばかりをやってしまうと、それは音楽のライブというより、アミューズメント・パークになってしまいますよね。そうではなくて、音楽を体感するうえで、その体感をサポートしてくれるような演出をするという感覚は、絶対に忘れないようにしたいと考えてます。 表現として、その場所に音楽を聴きに来てもらって、そのうえで、お客さんに「新しい世界に連れて行ってもらえた」と感じてもらえるような演出、それが、僕らのやりたいことに近いのかなって思います。ライブを見に来て、その結果、「すごくいい舞台を見せてもらったな」っていう感想ならいんだけど、最初から舞台を期待されて、音楽がそこに付属するものになってしまうのは、僕は嫌だなって思います。あくまでも、音楽がすべてのスタートなわけだから。

--今の話を聞いて思い出しましたが、2012年の“ZEPP ALIVE”は、ものすごいインパクトでした。バンドのライブを見に来たつもりが、いきなりオープニングで、ステージを覆う白幕にシルエットが浮かぶと、5人ともラップトップ・スタイルで。「えっ、バンドじゃないの!?」って思いましたよ(笑)。

山口:あの時は、オープニングがラップトップで、シルエットを映していた白幕がバーッと落ちると、バンド・スタイルで「Klee」が始まるっていう演出でしたよね。そうやって、お客さんの期待をいい意味で一度裏切ると、その後もずっと裏切り続けなきゃいけなくなるんですけどね(笑)。ただそれが今回、ある意味でゼロに戻せたんですよ。静かな無音から、バンドの生音でライブが始まるっていう。だから、次はゼロからのスタート、何をやってもいいという感覚になっていますね。

--そう考えると、今回のツアーは、フィジカルな要素がとても強いライブでしたね。

山口:フィジカルでしたね。生演奏のインスト曲もやったし、アンコールでは、それと対極にある完全打ち込みのDJセットをやって。でも、本編は完全にフィジカル。やっていて、面白かったですよ。音楽って、メンタルな要素がすごく影響するんだなって、もちろん分かってはいたけど、改めて実感したし。緊張していると、露骨に演奏に表れるんですよね。あと、モニターの聴こえ方がよくないと、プレイに集中できなかったり。そういった経験をいっぱいして、成長できたツアーでした。

--しかもどの公演も、その日、その空間だけの“ライブ”でしたよね。サカナクションのライブって、打ち込みの要素が強いので、イメージ的には完全にプログラミングされたかのようにも思ってしまうんですが、でも実際は、一日たりとも同じライブなんてものは無くて、ある意味で、とてもアナログだなって感じました。

山口:そこが、サカナクションの魅力だし、僕らが目指しているところです。僕らのライブって、オールド・スタイルのロック・バンドが好きな人達ではなく、もっと新しい体験がしたいっていう人達がたくさん見に来てくれるから、そういう人達と一緒に、ひとつのシーンを作っていこうとすることが、僕らの取り組みなんです。

--その新しいシーンを生み出すためにも、「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」を作ったことは画期的だと思うし、サカナクションだからこその作品だと言えるでしょうね。

山口:ずっと追いかけてくれているファンのみんなには、僕らの姿勢って、ちゃんと伝わっていると思うんですよ。つまりそれって、10年後、20年後、あるいは30年後に、誰かがサカナクションを見直してくれて、僕らのヒストリーを最初から追いかけてくれた時に、このバンドの姿勢、ストーリーにすぐに気付いてもらえるということなんです。僕が、YMOをたどって、そのストーリーに気付いたように。それを僕らは一貫して、しっかりと作れていると思うし、それって、すごく重要なことなんじゃないかと考えていて。言っていること、やっていることがブレない。そこは絶対にブレずにいたいし、もし変わることがあれば、変わっていく過程もしっかりと見せていくことが大事なことなんじゃないかって思っています。

音楽専門チャンネルとしての「サカナクション・ビジョン」

--昨年末のNHK紅白歌合戦で初めてサカナクションを知ったというファンにとっては、これが最初のライブ映像作品となるわけですよね。そういったライト・リスナーも含めて、本作品をどのように見て欲しいか、最後に改めて聞かせてください。

山口:僕はもう、ただただみなさんに、NHKのBSを見るように、民放のテレビ番組を見るように、ケーブル・テレビを見るように、僕が「釣りビジョン」を見るように(笑)、本当に普通に見て欲しいです。音楽を見るという感覚でもいいし、それとは違った感覚でもいいし。もし、「とにかく、サカナクションのライブが見たい」と思って買ってくれたのだとしたら、まず先に、ライブだけの「Standard Edition」を見て、そして後から「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」を見てもらえると、より楽しめるんじゃないかなって思います。やっぱり、ライブを楽しみたいと思って見る感覚と、「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」の面白さは、少し違いますから。そうは言っても、「Featuring TEAM SAKANACTION Edition」にも、ライブを楽しんでもらえる要素はたくさん入っていますから、僕らのことをよく理解してくれているファンの方なら、こちらも十分に楽しんでもらえると思います。

 僕ね、よく話すんですけど、「釣りビジョン」っていう、釣りの専門チャンネルがあるんですよ。専門チャンネルだから、釣りのことしか放送しないし、しかも初心者に対するフォローは一切ないんです。それは、釣りをしている人しか見ないから。だけど経験上、釣りをやらない人でも、見ていたら、絶対に面白いと思い始めるんですよ。それはどうしてかと言うと、リアルなドキュメンタリーだからなんです。

--ああ、その感覚、何となく分かります。僕は鉄道には興味がないし、むしろあまり知らない方ですが、それでも鉄道マニアが集まる番組って、すごく面白いと思うし、大好きなんですよ(笑)。

山口:でしょ? それって、出ている人が、みんな本気だからなんですよ。「釣りビジョン」も、ぜひ一度見て欲しいんですけど(笑)、2日間で何匹釣れるかをリアルにやって、1匹も釣れなかったら、釣れなかったことを、そのまま放送したりするんですよ。だからこそ、釣れたら本気で喜ぶし、裏方のカメラマンが興奮している様子も、画面を見ていて伝わってくるんです。本当のドキュメンタリー。それって、やっぱりすごく重要なことだと思います。

それを考えると、音楽専門チャンネルって、チャート番組か、もしくは特番しかないんですね。音楽専用チャンネルなのに、音楽の専門的なことを一切教えていない。つまり、僕らが「面白い」と思う部分を伝えてくれるメディアって、今はひとつもないんです。でも、メディアが変わるなんて、歴史を顧みても、そう簡単なことじゃないのは明らかで。じゃあどうするかと考えたら、自分は音楽をやっているんだから、自分から発信して、元から変えていかなきゃダメだって思ったんです。そうすれば、リスナーが変わるかもしれない。リスナーが変われば、メディアが変わるんじゃないかっていう発想。音楽の面白さをリスナーに伝えることが、自分達の目標であり、使命であり、やりたいことなんです。つまり、僕らの“表現”なんですね。だから、このBlu-rayは……「釣りビジョン」なんです!(爆笑)。僕らのライブの裏側もすべて知ることができるし、特典には超専門的な演奏解説もついてくるし、10代だと参加できない「TAICOCLUB'14」のレイヴを疑似体験できる映像も付いてくるっていう、釣りビジョンに対抗した、「サカナクション・ビジョンというわけです。

--いろいろとお話を聞いてきましたけど、ある意味で、「サカナクション・ビジョン」が一番分かりやすい説明でした(笑)。

山口:(笑)。チーム・サカナクションに対して面白みを感じている人には、ものすごく興味深いものになっているし、そういった部分をあまり知らない人が見ても、きっと何か感じるものがある作品になっていると思います。さらに、サカナクション初心者の人なら、まずはライブ映像だけを見てもらうこともできるというように、僕らのすべてを知れる、「サカナクション百科」ですね(笑)。サカナクション・ビジョンがお送りする、サカナクション百科だと思って、この映像作品を、ぜひ楽しんでください!

Interviewer:布施雄一郎

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