URCレコードやベルウッドレコードの音楽にハマった半田健人が、その世界を現代に再現すべく、サウンド・プロデューサーに柳田ヒロを起用して制作したアルバム。フォーク〜カントリー〜ブルース〜ラグタイムを経由した半田健人独自の世界が全編に渡り展開。そして何より、歌詞が胸に沁みる。
音楽評論家顔負けの豊富な知識で歌謡曲の論客としても知られる半田健人が、何故か昭和四十年代のフォーク、とりわけURCやベルウッドレコードの世界にハマっているという。ハマっているだけではなく、その時代の当事者である なぎら健壱さんや柳田ヒロさんのライブに足しげく通い、本人から当時の情報なども探っているというのだ。昭和歌謡、録音機材、楽器、電車、高層ビル、昭和史・・・。一度気になったものは徹底的に調べずにはおれない半田健人の性格はご存知の通り。今回ハマったフォークも然りで、当時の時代背景、機材、演奏者、録音環境に至るまで調べ上げ、そして、研究した結果、遂には柳田ヒロ氏をサウンドプロデューサーに立て、URCやベルウッドの世界を半田健人のフィルターを通して現代に再現するという。思い立ったが吉日、半田は柳田ヒロ氏が演奏するライブに足を運び、その場でプロデュースを依頼。私はその場に居合わせたが、柳田氏は無謀な依頼をその場で快諾。ライブ後のバタバタした現場で依頼する半田も相当だが、その場で快諾する柳田氏にも仰天した。これが昭和世代の男のパワーなのか(因みにその日は客席にいたせんだみつお氏が飛び入りでライブに参加し、ここではとても書けないような強烈なネタで主役を完全に食い、会場を爆笑の渦に巻き込んでいた。昭和の男、恐るべし。・・・閑話休題)。さて、そのような顛末を経て完成したのがこのアルバム「生活」。半田健人本人の弾くギター(こだわりの使用楽器、機材は全てCDにクレジットされている)、柳田ヒロ氏のピアノ、田中清司氏のドラムを基本編成に、曲によって適宜スチールギター、バイオリン、サックス、クラリネットが加えられている。録音では半田個人所有のマイクを使ったり、曲によってはボーカルを含むすべての楽器を一つのマイクで録ったりと、通常の録音では考えられない手法があちこちで採られた。一曲目の高田渡の「座蒲団」のカバーなど、トラックダウンの段階で音をあえて音質を悪くする事すら試みられるなど、2018年の新譜とは思えない空気が音に横溢している。そもそも、昨今の新譜でスチールギターは使われない。が、半田健人としてはマストの楽器であったとの事。アルバム一枚通して伝わってくるのは、まさにあの時代の空気感。そして、サウンド面にばかり耳が行く中で今回注目すべきはその歌詞世界である。恥ずかしい言い方を百も承知で言えば「文学」である。ユーモアの殻で覆った本物の言葉の数々。解説すると野暮になる繊細な世界は、是非ご自分で噛み締めて頂きたい。誰もが感じながら誰もが言葉にしなかった世界は、普段向き合わない自分を、音楽を通して写し出してくれる。それは、こそばゆいが、妙に清々しい。
Text by Cappuccino Kido
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2018.05.08