夢枕 原作(原作は単行本の他、朝日新聞に99年4月〜10月連載)、岡野玲子によりコミック化。闇が闇として残っており、鬼、妖怪、怨霊が存在していたとされる平安時代に呪術(陰陽道)をもちいて事件を解決する陰陽師。そのスーパースターが安倍晴明という実在の人物。安倍益材と狐の間にできた子といわれ幼い頃より特異な才能を身につける。映画「帝都物語」で帝都を壊滅せんとした男、加藤は映画の中で自分を安倍晴明の末裔と称する。コミックスでは飄々としたキャラクターで描かれているが"安倍晴明、鬼のうわまえはねる奴"というような食えない一面ももちあわせている。

 ここ昨今陰陽師ブーム、安倍晴明ブームといわれる動きがかいま見られる。この動きは映画「帝都物語」あたりから注目され始め、伝奇小説や超能力等の未知なものに対しファンタジーを感じる男性層に受け入れられていく一方で、少女マンガや少女小説の世界では根強い人気をもつ平安時代を代表とする"王朝もの"ファンの女性層に受け入れられていったといわれる。
今や京都の晴明神社は若い女性で賑わうと同時に魔境スポットとして崇め奉られている。とにもかくにも安倍晴明はアイドル化し始めているのである。そして冒頭に記したようにこの動きはここ昨今、ブームといわれるくらいの広がりを見せ始めている。朝日、読売両新聞がそろってとりあげるとともに女性誌では安倍晴明のクローズアップ記事が掲載されている。
こうした広がりの要因としては前項で記したように我々の日常生活に陰陽道が密接に関係している、つまり無意識に陰陽道をとりこんでいるということが前提にあり、それがあらためてクローズアップされだしているのは、或種、時代が必然とした結果ではないだろうか?闇が闇として残っており、鬼、妖怪が存在したとされる平安時代と先が見えない長期不況構造の真っただ中にいる世紀末の日本、そしてその解決を呪術(陰陽道)に求めた平安時代と今や身近な存在として定着している陰陽道とその源を同じくする風水やアロマテラピー等の癒しの文化がクローズアップされている現代との間には類似性を感じずにはいられないのである。

 陰陽道は中国の風水学と同じ陰陽五行説をルーツを持ち、千数百年まえに日本へ輸入され神道、密教などと結びつき平安期に発展した。守備範囲は天文、暦、相地、占筮、方術など。陰陽道では自分の周囲に起きることはすべて必然であり、過去も未来も読み取ることができると考える。たとえば何か災いがおこったなら、その原因を探し、状況を一変させることができる。天文を基礎に、人知を越えた宇宙意志を読み解くことが陰陽師の重要な仕事だ。



 陰陽道の陰陽五行説とは、時間や空間、物質はすべて木・火・土・金・水のいずれかの性質を帯びながら姿を変えているという考え方。いずれもどれかの生みの親であり、同時に子である。そしてお互い奪い奪われるという関係性〜相生相克〜を説明したもの。もちろん人間関係にもあてはまる。たとえば、最近流行の動物占い(※1)は陰陽五行説と西洋流性格判断を合わせたものであるし、風水(※2)は陰陽道と姉妹関係にあたり、共に中国の道教から発展したものである。十干十二支を基盤にした相地術(方角、家相見)などはほとんど同様。またお守り、しめ縄、お屠蘇、☆印といった呪術的な要素、七草粥のような習慣、節分、ひな祭、端午の節句、七夕、などの年間行事、天皇といった名称は陰陽道から発生しており、このほか相撲、剣道、歌舞伎、香道、茶道、さらに神道や仏教など日本のあらゆる文化芸能宗教まで浸透している陰陽道は音楽(雅楽)とも深い関係がある。陰陽道では雅楽の音律と星の運行は一致して考えられ、それぞれの音には方位、季節、色などが当てはめられている。雅楽(※3)とは陰陽楽なのである。


※1)
動物占い…陰陽道で使われている陰陽五行説を西洋流性格判断とミックスしてヒットした。
※2)風水…近年では、引越、模様替えに必須となった。陰陽道とは姉妹関係でともに中国の道教から発展した。十干十二支を基本にした相地術(方角、家相見)などはほとんど同じもの。
※3)雅楽…「陰陽師」で描かれたことと、若手演奏家の登場によりソフトなイメージが作られ、愛好者が急増している。「陰陽師」の中では楽聖・源博雅が安倍晴明のパートナーとして登場し問題解決の重要なキーパーソンとして描かれている。
(C)岡野玲子・夢枕獏/白泉社
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