私は医師として70年間も働いてきて、今なお、現役の一線で働いていますが、私の長い生涯は音楽とは切り離せない密な関係があるのです。今から15年前、医療の中に音楽療法を導入し、日本に音楽療法学会を発足させて以来約10年間、私はこの日本音楽療法学会の理事長を務めてきました。
世界で音楽療法を医療に一番早く導入したのは、米国ですが、その先駆者といわれるガストン(E.T.Gaston)は1958年頃に次のような言葉を述べています。
「もし言葉だけで人間の心と心が通うのであれば、音楽などは存在しなかったであろう」と。つまり、人の心と心を言葉だけで通わせられないところを、音楽は果たしているというのです。
医師と患者、看護師と患者との間には病を癒す上で密接な関係があって、“病気を癒す”関係が作られるはずですが、患者と音楽療法士の間には、医師や看護師では果たし得ない密な関係が作られ、それが病気の癒しに非常に大切な効果を発揮するのです。
今回のアルバムでは、私が選んだ有名な作曲家によって作られた曲目をこの中に選び、私のつたない作曲も加えて、このアルバムを編集しました。この音楽を聴かれることにより、病む心が癒されたり、心のストレスや不安が取り除かれたり、またその音楽を聴いて、心が力づけられ、気持ちが弾まれるものと信じます。
日野原重明