INTERVIEW

Special Interview Vol.3 4/4

--本作に関連するお話は以上です。最後に制作を終えて、今の心境など伺えればと思います。

「今日、釣りに行ってて思ったんですけど、自分の好きなタイミングで音楽を作ってた時のことを思い出したんですよ」

--アマチュアの頃ってことですか。

「アマチュアの頃もそうだし、最初の2枚のアルバムの頃。そういう風に音楽を作りたいですね」

--やれタイアップだリリース・スケジュールだという、ある種の制約のもとに作っている。それがモチベーション、あるいはパワーになる時もあるし、逆の時もある。

「タイアップがいやだっていうんじゃなくて、仕事っぽくなるのがいやですね」

--仕事なんだけど、仕事っぽくはしたくない。

「うん。タイアップも含めて、楽しみながら音楽を作れたらいいと思う」

--それは時間の制約から解き放たれたいということですか。

「ありますね。初期衝動を取り戻したいです」

--サカナクションが初期衝動のままに作っていたのっていつごろまでですか。

「初期衝動はファーストで終わってますよ(笑)。……今日東京湾に釣りに行ったんですけど、東京でこんな遊び方があるなんて全然知らなかった。たぶんそういうことはこの街にいっぱいあるんだろうなと。自分が知らない遊び。それを一個ずつクリアしていって自分にインプットしていったら、また新しい初期衝動が生まれるかもしれない。それは恋愛かもしれないし、もっと違うものもあるだろうし」

--モチベーションになるものを探すってことですね。いろんなところに出かけて刺激を受けるのはいいかもしれませんね。

「東京は歌舞伎とか落語とか、いつだって見られるじゃないですか。でも今は忙しすぎてそういう時間がないんですよ。損してるなあと思うし、ある意味嬉しい悲鳴だけど…もっと新しい自分を見いだすチャンスもあるんだろうなあと思いました」

--たとえば今度共演した環ROY君は、あなたと対照的な作り方をしてますよね。その場の瞬発力で、自分が今まで蓄積したものを即座に言葉にして出す仕事だけど、山口君の場合はひとつの言葉を選ぶのに何週間も苦しむような作り方をしている。それは創作者としてのスタイルの違いなんだけど、いろんなものを吸収して即座に反映させるようなフットワークの軽さは参考になるかもしれない。

「うん。そういう風に作ったものも素敵だと思う。そこにもう一回戻れば、また今のスタイルってものを見直せるし、それの良さもわかると思う。今はやっぱりもう、常に針の穴に糸を通すみたいな感覚で続けてるから。でっかいフラフープをワーイ!ってくぐることに一回戻りたい気がしますね」

--戻れそうですか。

「うーん…でも自分一人(の問題)じゃないですからね。メンバーもそうだし、関わっている人もたくさんいる。3年4年アルバム出しませんツアーもしません、なんてわけにはいかないし。そんなに…それで生きていけるほど結果出してないし(苦笑)」

--でも時間に追われてやってるからこそ、できることもあると思うんですよ。今のサカナクションの作品って、特にシングルに顕著ですけど、どんなタイプの曲であれヒリヒリとした緊張感がある。手癖で作ったようなだらだらした曲がひとつもない。時間に追われて常にギリギリのところでやってる、その緊張感が楽曲に反映してる気がしますね。これがゆったりと間を置いて時間の余裕があるところで作ると、今と違うものができるかもしれないけど、今みたいな張り詰めた密度の濃さとはちょっと違ってくるかもしれない。

「そうかもしれない」

--ビートルズやストーンズも、60年代の一時期に、3ヶ月に1枚シングルを出して、年に1~2枚アルバムを出していたわけじゃないですか。でもその止まらないで走り続けているその勢いとテンションがあったから、あれだけ名曲名作を連発できたのかもしれない。

「そうですね。でも世の中、過去の素晴らしい音楽がこれだけたくさん気軽に聴ける状況があるのに、自分は音楽を作ることに追われて、それを吸収する時間がないっていうのももったいないって思うんですよ。だから…自分が作らなくても、既にいい音楽いっぱいあるのになって、いつも思う。いい音楽を吸収し続けるだけの人生って、ほんといいなと思いますよ」

--いちリスナーに戻りたいってことですか。

「戻りたい」

--以前、早く裏方に回りたいって言ってましたね。

「回りたい(笑)。でもちょっと変わりつつあるのは、こないだ『JAPAN NIGHT』っていう、海外のメディアの前で演奏する機会があって。そこで思ったのは、人生で一回ぐらい海外にチャレンジしてみてもいいなって思った」

--以前は、海外進出なんて興味ないって言ってましたよね。

「うん。向こうで通用するかどうかは別として、ここまで来たのにチャレンジしないで終わるのは、人生経験としてもったいないなと」

--その場合、向こうの状況に合わせてアジャストするのか、今自分たちがやっているスタイルそのままで勝負するのか。

「それはもう、今の自分たちがやりたいことと、向こうが求めることをバランスとってやる。今のJ-POPにチャレンジする感覚と一緒。いきなり向こうに行ってワーッと日本語でやってもしょうがないし、かといってインストでやるわけにもいかない。そのバランスをとっていきたい。むこうの人が面白いと思うものと日本人が面白いと思うものは微妙に違うだろうし」

--次のアルバムの結果次第って感じですか。

「うん。でもレイヴ・パーティーもあるしね」

--やることいっぱいありますね。モチベーション、まだまだ燃えさかってるじゃないですか。

「うん。裏方になるのはまだ先の話かな(笑)」