鈴木 彩子
Saiko Suzuki

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2020.06.10

ライター轡田昇によるスペシャル・インタビューを公開!

デビュー当初から現在まで一貫して鈴木彩子の音楽の良き理解者であるライター轡田昇氏によるインタビュー記事を特別に公開いたしました。


「デビュー30周年を迎え、これからも自分のペースで歩み続ける
“Love & Peace”のスピリッツに溢れたアーティスト」

 あらためて思う。慈愛に満ちたヴォーカリストなのだな、と。平たくいうなら、“Love & Peace”のスピリッツに溢れたアーティストか。“Love & Peace”というワードからは、John LennonやBob Marley、Sam Cooke、Bono(U2)…etc.といったビッグネームたちを世間は思い浮かべるのだろうか。もちろん彼らと比べるつもりはないし、当然、認知度は及ばない。ただ、純度では決してひけをとらない――鈴木彩子。今年、デビュー30周年を迎えた。あらためて彼女の30年間の軌跡を作品で辿ってみた。どれだけ時間が流れても、彼女のスピリッツは微塵も曇ることなく一貫していた。

 思えば、彼女のデビューは実に恵まれた環境の中で実現したものだったし、その意味合いが、今になって漸く合点がいく。デビュー時、鈴木彩子は、18になったばかりで、仙台(正確には岩沼市)から上京したての、世の中も音楽シーンの右も左もよくわからない、だけど果てしない希望に胸を高鳴らせていた女の子…、だったと記憶する。地元・宮城でもモデル活動をしていたこともあり、小可愛らしいルックスは秘めていたものの、音楽活動やステージ経験があったわけでもない音楽的“素人”の彼女に用意された環境は、破格…といっていい。メジャーレーベルからのリリースであることは言うに及ばず、「Runner」の大ヒットでブレイクを果たした爆風スランプを一躍メジャーシーンに押し上げ勢いに乗るマネジメントオフィス、音楽シーンの第一線をひた走るTHE ALFEEの高見沢俊彦の手によるデビュー曲、フジテレビ系青春ドラマの主題歌という肩書(タイアップ)…etc. バブル崩壊の足音が忍び寄る中でのこれらのお膳立ては、やはり彼女への期待値の高さの表れだったように思う。

 余談だが、彼女が秘めていた才能やセンスは音楽だけにとどまっていない。地元アマチュアバンドのライブを観て音楽的洗礼を受ける前の彼女は、かなり秀でたスポーツ少女だった。陸上競技、バドミントン、水泳…、どの競技においても全国レベルの成績を残し、こと水泳においては、ジュニア五輪の代表候補になるほどの実力を発揮。一方で、先述のとおり、仙台と東京双方のモデルエージェンシーに所属し、世界的にメジャーな清涼飲料水のTV-CMに出演したほか、主演映画まで製作された。つまり、その並外れた素養とポテンシャルで、ある程度活躍が見込める道が、目の前に幾つもひろがっていた。その中から、彼女は迷わず音楽の道を選んだ。選択肢の中ではもっともキャリアが乏しく、活躍の保証の薄い音楽を。
「運動は、体が弱かったから体力作りのためにやっていただけで、たまたま結果がついてきたに過ぎない。特に強化選手になってからは毎日が辛くて。だからいつも練習を休む理由を探す日々だった。だけど、音楽は常にワクワクできた。アマチュアバンドのライブを観て、夢を抱くことの大切さを知った自分が、今度は発信する側に立ちたい、耳を傾けてくれる人たちの心を震わし続けることで、世の中を少しでも良い方向に変えていけるなら、こんなに素敵なことはないと思えたから」

 デビュー当初から一貫して広義の愛と平和を願うスピリッツを歌ってきた。身近なところでは、学校や社会のあちこちで起こるイジメの問題を嘆き、自然破壊や環境汚染に心を痛め、紛争地域のニュースを哀しみ、愛に溢れる世の中を思い続けてきた。ただその一方でひとかたならない葛藤も抱えた。
「自分が本当にそうした大きなテーマを歌うに相応しい存在なのか、と。普段の自分は怠けたり楽なほうへと逃げたりすることが多いのに、音楽では至極まっとうなことを歌っている自分が嫌でプレッシャーや焦りで潰れそうだった」

 それでも鈴木彩子の歌に慰められ、癒され、勇気づけられたリスナーは少なくなく、現在は音楽とはやや距離を置きながら、フラワーアーティストとして活動の場を広げている自身の店(花屋)に、毎週のように彼女の歌で少なからず救われたファンが訪れるのだという。
「本当にありがたいですね。こうした人たちに支えられて音楽を続けてこれたし、今の私がいる。それが素直に嬉しいんです。だから今回30周年のベストアルバム制作のお話をいただいた際も、感謝の気持ちしかなくて。音楽活動における区切りとか節目という意識は全然なく、ただただありがたいな、と。きっと、歌にも花にも、人の心に働きかけて浄化してくれる共通の作用があるような気がするんです」

 選曲にあたって、あらためて自らの足跡を丹念になぞってみたという。そこで感じたのは、自分に合ったスピードと歩幅で歩みを進めることの大切さだったという。
「誰にも、自分に向いているペースがある。一生懸命になり過ぎるあまり、自分を責めたり嫌いになるくらいなら、立ち止まったり、何かを手放してもいい。大事なものを守るため、自分らしさを損なわないため、そして日々少しでも前に進むためには、時としてそうゆう選択をすることもあるのかも。これからも日々、自分を取り巻く世界を、ささやかな毎日を、より良くするために学びの日々は続きます」

 奇しくもこの作品が、真に大切なものは何かが問われ出したコロナ禍の渦中にリリースされることになったことにも、大きな意味があるような気がしてならない。

 文 / 轡田 昇

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