EPISODE1

『惡の華』は、それまではどこかロックアイドル的なイメージもあったBUCK-TICKが、バンドの方向性を大きく変えていくタイミングでもあった。

「この一作前の『TABOO』というアルバムから、バンドのスタイルが大幅に変化したんですよね。一枚目二枚目に関しては、世間的には、(同郷の先輩である)BOOWYのフォロワーのバンドなんじゃないのっていう捉えられ方もあったと思うんです。それが『TABOO』では、BUCK-TICKの陰影のきいたダークな方向に走り出すきっかけになった。レコーディングをロンドンでやったから、そのロンドンの空気に触れながら、向こうのスタッフとレコーディングしたことによって、今までの日本の風土とは違うものが注ぎ込まれたんです。で、『惡の華』は、『TABOO』の途中から参加してくれたレコーディングエンジニアの人とやることになったか、さらにその要素が強くなったんだと思うんです。『TABOO』がそのきっかけであるとすれば、『惡の華』はそれを具現化する道のりにのったアルバムで、そして次の『狂った太陽』でそれが完全に開花する。いわゆる3部作みたいなものの真ん中にある作品なんだと思うんです」

この大きな方向転換があったからこそ、今のBUCK-TICKがあると言っても過言ではない。そして、その変化は音楽性に限らずビジュアルにも表れ、あの印象的なジャケットが完成した。

「ブルーノ・ディアンというフランス人のカメラマンに撮ってもらうことになって。映画の「メトロポリス」のような、レトロな近未来、産業革命の頃のヨーロッパの雰囲気みたいな感じにしたくて、そのイメージを伝えてこの世界を作ったんです。ビデオアルバムに関しては、アルバム全曲のPVを撮るって、当時海外ではやってる人がいたんだけど、日本のアーティストは確かまだ誰もやってなくて、日本で初めてだからやりたい、と思ったんですよ。大変でしたけどね(笑)」

『惡の華』というインパクトは、BUCK-TICKに変化をもたらしただけでなく、日本のロックシーンにも大きな波紋を残した。

「氣志團が『惡の華』のジャケットをモチーフにしたことがありましたよね(笑)。後に続くバンドに影響を与えてはいると思うんですけど、BUCK-TICKは下地にパンクやニューウエーブが強くあるので、いわゆるビジュアル系とは違うところにも、実はすごい影響を与えていたりする。そういうところがすごい面白いなと思うんですよ」

そんな日本のロック史における“マスターピース”とも言うべき『惡の華』が、25年の時を経て新しく生まれ変わることになった。その企画を聞いた時、どんなことを思ったのだろうか。

「今になると、ああすればよかった、こうしておけばよかった、みたいな思いがそれぞれの曲にいろいろとあるんですよ。たぶんメンバーもあると思うんです。なので、この企画の依頼を受けた時に、今の時代からもう一回見直した時に、どういう音だったら当時最高だなと思ったかな、っていうことを念頭において、一曲一曲のミックスを進めていったんです。特に、『狂った太陽』以降、ずっとBUCK-TICKのエンジニアをやってくれている比留間(整)くんがやっているというだけで、今のBUCK-TICKの音にどんどん近づいていくんですよね。腕のあるレコーディングエンジニアの人って、例え自分が携わっていない過去の音源でも、作っていくうちにちゃんと自分の音になっていくんです。だから、聴いてもらうとわかると思うんですけど、当時音の隙間が多くて、迫力がちょっと足りないっていうふうに思った人もいたと思うんですけど、今回のミックスで一曲一曲骨太になっているというか、ちょっと激しくなっているので、迫力不足に思えていた点は解消されてるんじゃないかなと思うんですね。でも一曲一曲個性は消してない。リミックスではないので、新たに音を足したりとか、切り刻んだりはしていないので、安心して聴いていただけるんじゃないかなと思います……と思っていたら、周り(の関係者)から「NATIONAL MEDIA BOYS」で結構ビックリした、と言われたりして、そうなのか……と思ってみたり(笑)」