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INTERVIEW
インタビュー
工藤夕貴さん 時任三郎さん 西島秀俊さん
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工藤夕貴さん インタビュー

きれいごとだけじゃない生身の人間らしい人間を演じたかったんです。
 生活の拠点をアメリカから日本に移し、富士山麓で「土と向き合う」生活を送る工藤夕貴さん。『春よこい』で、息子を守りながら夫を待ち続ける女性・尾崎芳枝を演じる。「自分自身が普通っぽいところのある女優だからこそ、日常を普通に生きるだけの女を演じたときに、ある意味、信憑性が出て来るというのが、自分にとってのプラスの部分だと思っているんです」と語る彼女に、この映画に対する思いや撮影中のエピソードなどをうかがった。
 
Q.『戦争と青春』以来17年振りの日本映画主演となりますが、出演を決める決め手となったことは何ですか?
 
日本にしばらくぶりに帰ってきて、たまたまTVを見ていたら、自分の子供を抱きしめてあげてくださいというコマーシャルが流れていて、カルチャー・ショックを受けたんです。当たり前の親子関係が、今はコマーシャルにならないと子供を抱きしめてあげる事も出来ないのかな、と思ってびっくりしたんですよ。そういう時代にこういう映画ってすごく大事なんじゃないかな、と。私達が当たり前に思っていた良さや家族としてのクオリティとか、そういうものを演じられたら、と思ったんです。
 
Q.脚本を読んでそのように感じられて、オファーを受けた、という‥。
 
前回演じた役が、天才科学者の役(『L change the World』)で、その前の役が極悪人の役(『ラッシュアワー3』)で、その前の役は“頭にお姉さんが隠れている”という恐ろしい役(『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜』)だったので、この辺で違う自分の一面を演じたかったところもあります。私自身、家族の本来あるべき姿に恵まれなかったというところもあるので、そういうものをどこか心が渇望しているというか、埋めたいというようなところがあって、家族ものや親子ものに結構弱いんです。
 
Q.芳枝という役をどのようにとらえて演じましたか?
 
ただ我慢強くて、夫が帰って来るのを待ち続けられる女性って世の中にいるのかしら、そういう人も希有な存在としてはいるとは思うんですけど、自分が観たときに共通点が持てない役っていろんな人が観るときに訴えかけられるのかしら、という心配があって、監督さんと話し合いながら、芳枝が何でこんなに長いこと彼を待ち続けていたのかということを、深く考えたんです。たどり着いた答えというのが、彼女にとってはツヨシの幸せを守る、必死に毎日生きて来た結果が待ち続けることになり、そしてツヨシのことを思いやる母親としての気持ちが、また家族をひとつに戻す動力に繋がったということなんじゃないかな、ということでした。誰かにすがりたい気持ちはあったと思うし、西島さんが演じられた利夫に心のなかでは惹かれながらも自分でブレーキをかけたり、ガッと叫んでみたり‥。きれいごとだけじゃない生身の人間らしい人間を演じたかったんです。
 
Q.海に向かって叫ぶシーンは、どんな気持ちで演じましたか?
 
それまで吐き出せる場所がなくて、必死にごまかしごまかし生きて来ているわけですけど、どこかで爆発したい気持ちはずっとあった中で一気にそれが吹き出した。私としては、そうじゃなきゃいけないと思うし、私でもそうなるだろうと思います。そのシーンは私にとって重要なシーンで、芳枝にとって母親を演じていることが日常なんだけれども、あそこでは女性の部分であったり、本音の芳枝というのが顔を出す。個人的にはそれで芳枝がすごく好きになりました。
 
Q.他に印象深いシーン、あるいは演じられて難しかったシーンがあったらお聞かせください。
 
一番難しかったのが、最後のクライマックスのシーンで、最後の最後まで引っ張っているだけ、プレッシャーがあって、あそこのシーンは精神的にきつかったですね。どうやったら観ている人も納得できるようなシーンになるのか、その辺が一番難しかった。そのほかに、(芳枝が)こうやってお母さんとして乗り越えて来たのかな、と思わせるシーンとして、ツヨシが指名手配されているお父さんの写真を見ているときに、ツヨシを無理矢理追いかけることをせず、黙ってツヨシに話をさせてあげる。何も言わずに『わかってるよ』という言葉だけで、そのお母さんがツヨシのことをどれだけ思っているかという気持ちが伝わってくるという、あの防波堤のシーンも好きです。
 
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