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BUCK-TICK 2022 | DEBUT 35TH ANNIVERSARY YEARBUCK-TICK 2022 DEBUT 35TH ANNIVERSARY YEAR Special Site

BUCK-TICK 2022
DEBUT 35TH ANNIVERSARY YEAR

DISC REVIEW

Debut 35th Anniversary Concept Best Album
『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』 REVIEW

インターネット百科事典のWikipediaでBUCK-TICKを検索すると、【ジャンル】の項目に他に類を見ない数の音楽ジャンルが明記されているということは、BUCK-TICKファンの間では有名な話。ロックにはじまり、ニュー・ウェイヴ、ビートロック、オルタナティヴ・ロック、ポストパンク、ゴシック・ロック、インダストリアル、テクノポップ、(中略)レゲエ、昭和歌謡と、2022年8月の時点では実に21のジャンルが併記されている。ビートロックをベースにパンクやニュー・ウェイヴのエッセンスを効かせた初期の作品や、初のロンドンレコーディングで硬質かつダークなサウンドに転化した『TABOO』(89年)、デカダンで耽美な世界観を確立した『惡の華』(90年)、デジタルロックの開花により音楽性の幅を広げた『狂った太陽』(91年)、『darker than darkness -style93-』(93年)ではダブやファンクやヒップホップ、『Six/Nine』(95年)ではテクノやアンビエントなど多彩な要素を盛り込み、『十三階は月光』(05年)ではゴシックロックに振り切ったかと思えば、『天使のリボルバー』(07年)や『memento mori』(09年)ではバンドサウンドを前面に打ち出した。一つ一つを取り上げると長くなってしまうのでこの辺りにするが、毎回新しいアルバムをリリースするたびに新しい手触りのBUCK-TICKを提示してくれる。“変化を恐れず、進化する”という言葉はよく聞くが、“変化を楽しみ、進化してきた”のがBUCK-TICKであり、BUCK-TICKリスナーなのであろう。

これだけ幅広い音楽性を持っていると、核となる部分、いわゆる“BUCK-TICKらしさ”とはどれのことなのだろう?という疑問が湧いて出る。こういう周年のタイミングだっただろうか、一度メインコンポーザーである今井寿に「今井さんが思う“BUCK-TICKらしさ”とは何ですか?」と尋ねたことがある。その時の答えは「わからない」だった。しかも即答だった。サウンドや詞世界、ヴィジュアルに至るまで、メンバー5人が生み出す全てのものが“BUCK-TICK”なのだから、生み出している当人に問うてみても「わからない」が正解だろう。愚問の極みだったと今は思う。

デビュー35周年を記念して9月21日にリリースされるDebut 35th Anniversary Concept Best Album『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』は、35年間に発売された膨大な楽曲の中から5つのコンセプトに基づき楽曲を再編纂した5枚組のコンセプトベストアルバム。中には今回新たにアレンジを加えた楽曲や、過去にリアレンジされていたバージョンを収録した楽曲もあり、35年間の進化の過程を楽しめる。さらにDISC1『RIBELO』には、新曲の「さよならシェルター」が収録された。今でいう“プレイリスト”的観点でセレクトされたそれぞれのディスクには、今井が『RIBELO』『GOTIKA』『ELEKTRIZO』『FANTAZIO』『ESPERO』とエスペラント語(人工の国際語)のタイトルを付けた。濃縮された“BUCK-TICKらしさ”を存分に味わうことができる作品に仕上がっている。

DISC1DISC1『RIBELO』は、硬質なインダストリアルEBM「ICONOCLASM」で幕を開ける。その音楽性でいうとDISC3「ELEKTRIZO」に入っていそうなものだが、そこで今一度タイトルに立ち返る。「ICONOCLASM」の意味は“偶像破壊”や“伝統的な思想や因習からの打破”。ディスクタイトル『RIBELO』は“反乱”を意味する。それぞれの歌詞に着目すると、このディスクに集められた楽曲群は、戦争をモチーフにした「無知の涙」や「CHECK UP」、レコーディング中に起こった同時多発テロ事件をきっかけに生まれた「極東より愛を込めて」など、激しい怒りや憤り、虚無感や殺伐とした感情が根底に流れる。一聴するとキャッチーな「NATIONAL MEDIA BOYS」も、ヒトラー・ユーゲントに所属していた子供たちがモチーフになっているし、今回新たに再ミックスが加わりよりクリアーになったファンタジックな「ANGELIC CONVERSATION」も、種族争いを題材にした手塚治虫の『海のトリトン』から着想を得ている。自らが身を置く音楽シーンを皮肉ったかのような「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」は、2019年に開催した『ロクス・ソルスの獣たち』で披露したアレンジを元にしたニューバージョンが収録された。そして「ゲルニカの夜」は、櫻井敦司が子供の頃に見た前橋空襲を題材にした映画「時計は生きていた」で受けた衝撃から生まれた。アルバム『No.0』のツアーでの悲痛な歌声とパフォーマンスは、観る者の心を激しく打った。最後に収録された新曲「さよならシェルター」は、2023年春にリリースを予定しているニューアルバムの制作過程で生まれた、ブライトなサウンドスケープのミディアムナンバー。作曲は星野英彦。歌詞は櫻井敦司。今なお続くロシアのウクライナ侵攻禍で、シェルター内で「アナと雪の女王」の主題歌を歌う少女の動画を観た櫻井が、地獄でも救いがあるとしたらこういう光景なのだろうと、イメージを膨らませたという。闇の中にある小さな光。そのメッセージ性、希いは、このディスクの締めくくりにふさわしい。

DISC2DISC2は『GOTIKA』。音楽シーンにおけるゴシックとは、パンクロックからニュー・ウェイヴに至るシーンの中で生まれたムーブメントで、デヴィッド・ボウイやバウハウス、ザ・キュアーらをフェイバリットに挙げるBUCK-TICKの源流の一つと言える。退廃的、耽美的、ダークなどといった言葉で表現される世界観も然り。全編ゴシックをテーマとしたアルバム『十三階は月光』(05年)では、他を圧倒するほどに美しく堅固な世界観を作り上げた。今回、畏怖の念を抱くほど荘厳な「BABEL」に始まり、シアトリカルでアバンギャルドな「Mr.Darkness & Mrs.Moonlight」や「Alice in Wonder Underground」、ヤガミ・トールと樋口豊のリズム隊が繰り出すグルーヴも秀逸なヴォードヴィル調の「Lullaby-Ⅲ」、そして「ROMANCE」や「月蝕」「DIABOLO」「夢魔 -The Nightmare」と『十三階は月光』からは数多く選曲された。ラインナップを見ていると、2021年に行なったコンセプチュアルライブ「魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~」で具現化した世界観や、そこで得た手応えもこのディスクに影響を及ぼしているように感じられた。それと、1枚を通して交錯するエロスとタナトス。「DIABOLO」「夢魔 -The Nightmare」、「愛の葬列」と終盤につれて濃くなっていく死の気配。この流れがなんとも秀逸だ。

DISC3DISC3の『ELEKTRIZO』は読んで字のごとく、テクノポップやEBMなど、ダンサブルかつエクスペリメンタル的なエレクトリックナンバーが並ぶ。故に全18曲中、星野曲は「狂気のデッドヒート」の1曲、他17曲は今井曲である。それを象徴するように、1曲目の「DADA DISCO - G J T H B K H T D -」は今井の声から始まるところもいい。同じBPMの「GUSTAVE」と「Baby, I want you.」を並べるなど、ライヴの熱気が脳内で再現できるようなアッパーチューンの畳み掛けで、ボルテージを上げてくる。また、先に書いた「DADA DISCO - G J T H B K H T D -」では前衛芸術に関連した言葉が並んだり、「GUSTAVE」は猫を愛で、「BOY septem peccata mortalia」は七つの大罪、「Villain」はネット社会の誹謗中傷を皮肉っているといったように、それぞれの楽曲がもつストーリーが独創的なのも、このディスクの特徴的なところだ。生音とデジタルとの融合も聴きどころの一つだし、「MY FUCKIN' VALENTINE」「BRAN-NEW LOVER」「タナトス」と終盤の3曲は90年代、それ以前は2000年代と並んでいるため、ブレイクビーツやドラムンベースなど、デジタルサウンドの変遷を、この1枚を通して体感できるのも面白い。

DISC4DISC4の『FANTAZIO』は、櫻井敦司が生み出す世界観を凝縮した1枚。普遍的な物語として歌詞に落とし込んでいるものの、それには櫻井自身がこれまで語ってきた彼の生い立ちや、そこで生まれた感情といったものが色濃く反映されている。悲哀や痛苦、悔恨、懺悔、自虐、etc. ネガティブな言葉が並んだが、その根底にあるのはどれも、“愛してる”“愛して”という想いだ。亡くなった最愛の母親への懺悔や深い愛情を歌う「JUPITER」や「さくら」、戦地へ向かう兵士が最後に母親に電話を掛ける「Long Distance Call」では、誰もいなくなった実家に無意識に電話をかけていたという彼自身のエピソードをつい重ね合わせてしまう。立ち直れないほどディープでダークな世界に引き摺り込み、ロックフェスの会場を騒然とさせた「無題」を聴いていると、たとえ痛みや憎悪の感情であっても、それが自分とその人を繋ぐ唯一の糸であるならば手放したくはないのだという、無意識の想いがそこにはあるのではないかと受け止めている。しかし、“この部屋を 出て行くよ/ありがとう さようなら”と歌った「禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-」以降は、櫻井自身と詞世界との距離感が少し変化したようにも思う。女性目線で描いた「Moon さよならを教えて」での孤灯一穂のごとき情景や、男女を歌い分けた歌謡曲テイストの「舞夢マイム」は、パフォーマンスの幅をさらに広げる新境地となった。ラストの「忘却」に至るまで、櫻井のはちきれんばかりの感情が詰まったこのディスクに、『FANTAZIO』=“幻想”と名付けたのは今井なりの愛情だろうか。

DISC5DISC5『ESPERO』とは“希望”。コロナ禍で制作された、2020年9月リリースのアルバム『ABRACADABRA』は、タイトルの意味も相俟ってファンの間では“お守り”であり、“希望”であると捉えられた。DISC1収録の「さよならシェルター」の着想となった少女の歌について櫻井が語ったように、BUCK-TICKの音楽もまた、地獄の中の救いであったのだ。このディスクでは15曲中、今井作詞曲が7曲、櫻井と今井との共作が3曲と、今井が作詞した楽曲が多く並ぶ。未来や希望、愛や平和に対し、今井は真っ直ぐに指を差し、櫻井は両腕で包み込むような印象だ。映画のオープニングのようなイントロでドラマチックに始まる「疾風のブレードランナー」、“あなたに会えて良かった”と喜びをストレートに表現した「RENDEZVOUS?ランデヴー?」、“生きていたいと思う”と強い願いを明示した「鼓動」、「世界は闇で満ちている」は道を優しく指し示す人生賛歌だと思っている。琉球音階を前面に出したトライバルなナンバー「Memento mori」では愛と死を、櫻井と今井がツインボーカルを取る「FUTURE SONG -未来が通る-」では力強く“進め 未来だ”と歌う。初期の代表曲「JUST ONE MORE KISS」は、アコースティックサウンドが透明度を上げた2021年バージョンを収録した。ラストは「New World」。混沌としたこの世界の闇を切り裂き、光溢れる新しい世界へ思いを馳せる。その光はきっと、35周年を迎え、新しいスタートを切るBUCK-TICKが照らしてくれるのだろう。

DISC6

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