INTERVIEW

Special Interview Vol.1 2/6

--最初はCM用に断片的に作ったものの、曲として完成させることもなく、倉庫にしまったような感じになってたんですよね。どういう過程を辿って完成させていったんですか。

「AメロBメロサビ、って感じでCM用にできてたんです。そのAメロもBメロも使わずに、サビも新しくアレンジし直そうと。へたしたら歌詞も変えるぐらいの気持ちでいたんです。“エモーショナル”ってテーマを表現するために一発録りがいいと思ったし、打ち込みじゃなくバンドらしい曲にしたいという気持ちがベースにあって。なのでセッションから入っていったんです。それにあわせて僕が適当に歌詞を歌ったところから、この曲の制作がスタートしたんです。その時の(レコーディング)エンジニアも、僕らがいつもお願いしている浦本(雅史)さんじゃなくて、アシスタントのグリコ(土岐彩香)ーーと僕は呼んでるんですけどーーが偶然録っていたんですよ。その時のテイクがめちゃくちゃ良くて、じゃあこのダイナミクスをそのまんま採用しちゃおうかと」

--ああ、それでこの曲のエンジニアが土岐さんになったんですね。

「そうなんですよ。彼女も、僕がそのデモを聞いて歌詞を考えたりイメージを膨らませたりするのをわかってたから、けっこう気合いを入れてミックスしてくれて。そのダイナミクスがすごくよかったから。それを元にAメロもBメロも構成も変えて、現在の形になったんです」

--土岐さんのミックスは何が良かったんですか。

「むっちゃくちゃインディーズ感」

--インディーズ感?

「それまでシングル向けの音作りは、コンプ(コンプレッサー)かけてギリギリまで(音が)パンパンに入って、どの音響環境で聞いてもしっかり聞こえてくる、みたいな、そういうミックスになってたんだけど、グリコのミックスは”裸”だったんですよ。コンプを強くかけてないから生々しいし、曲の始まりは音が小さくて、曲の終わりになるとダイナミクスが盛り上がってるし」

--小さい音は小さく、大きな音は大きく聞こえる。つまりダイナミック・レンジが広い。コンプをいっぱいかけると音が圧縮されるから、ダイナミック・レンジが小さくなるけど、土岐さんのミックスはそうじゃなかった。

「それって僕が最近よく聞いている、ロバート・グラスパーとかテイラー・マクファーリンみたいなジャズのダイナミクスにすごい近かったんですよ。僕はそれを<インディーズ感>って呼んでたんです。生々しい、リアルな、ライヴな音。あのスタジオのデッドな空間でさえ、箱鳴りとして捉えられるような。それを彼女のミックスから感じたんです。それをヒントにアレンジを進めていったり、そのデモで弾いた、ギターがもたってるような部分を、あえて岩寺(基晴)に再現して弾いてもらったり」

--生々しさという意味で。

「そう。"揺れ"だったりね。ギターのフレーズを失敗した揺れをあえて再現してもらったり。あと、そのデモってベースがいなかったんですよ。草刈(愛美)が具合悪くて帰っちゃって。なのでベースなしのトラックに、あとからベースをダビングしたんですよ。それって今までやったことなくて。ウチのバンドはベースがグルーヴを作ってたのに、そのベースなしでセッションしたトラックにベースを後から入れたから、すごく変なノリになってて。すごくドライヴして突っ込んでるグルーヴに対して、一番最後にベースがついてきてる感じ。今まではみんな草刈のグルーヴに合わせていたのに、それが逆になった。それで今までにないグルーヴが生まれたんですよ」

--土岐さんはなぜコンプを使わずダイナミクスを重視するようなミックスにしたんでしょうか。

「彼女は25歳で、ディスクロージャーとか好きで、ちょっと変わってるんですよ(笑)。自分たちが面白いものを現代のリアルとして吸収していってる世代のエンジニアなんです。浦本さんは僕と同じ歳だから、昔の音楽も通ってきた上で、現代の音楽のアプローチしている。彼女はそういう昔の音楽をリアルタイムで通っていないけど、古い音質を現代の解釈で捉えられるというか。あと…ダンス・ミュージックをそんなに通ってない。ガチで研究してないミックスっていうかね。僕ら(サカナクションと浦本)はダンス・ミュージックを研究して、キックに対してコンプをどれぐらいかければこうなるか、工夫してたどり着いたミックスなんですよ。なのでまったく違う、生々しいものになったんだと思います」

--なるほど。

「ジャズを感じましたね! 彼女もロバート・グラスパーやテイラー・マクファーリンに反応してたし、そういう雰囲気にもっていきたいんだってことを伝える時に、共通言語として、同じ感覚を持てたんですよ。結果的にそういう(ジャズ的な)ものにはならなかったけど、面白かったし、刺激をもらいましたね」