INTERVIEW

Special Interview Vol.1 3/6

--新しい人とやることで新しい刺激があって、自分の曲や演奏も変わっていく。

「うん。浦本さんもずっと僕たちとやってきたから、浦本さんらしい音って決まってくるじゃないですか。ドラムの音作りにしても、ほかの楽器にしても。それを一旦取っ払ってフラットにしたのは、浦本さんにとっても僕らにとっても、すごくいい経験だったと思うし、ここから新しいものを作っていくうえで、発見がありそうと思いましたね」

--確かに浦本さんが担当した「蓮の花」とは全然違いますね。

「全然違いますね。<さよならはエモーション>は初期の曲っぽいとよく言われるんですけど、それはミックスだと思いますね。歌もまったく今までと違う録り方をしたし。レコーディング・ブースを使わなかったんですよ。コントロール・ルームでエンジニアと向き合いながら歌を録ったんです。草刈が横で聴いてて、3人で、1コーラスずつ。“もうちょっと(山下)達郎さんぽく歌ったほうがいいよね”とか”そこは小田和正風にいこうか”とか(笑)、いろいろ会話を交わしながら、すごく細かく、いろいろ実験しながら録りました」

--面白い(笑)。それはエンジニアと顔を付き合わせて、マンツーマンでやったからできたと。

「そう。あと、そのやり方ってまさに”宅レコ”なんですよ。いつも自分がデモを作るときに歌を録る方法と一緒」

--ひとりでテレコを操作しながら歌録りをする。

「そう。つまりレコーディング・ブースでマイクをたてて、エンジニアと窓越しに“じゃあお願いしまーす”とか言って録るのは、普段通りじゃないんですよ。そんなやり方ってレコーディングの時しかない。それだとリアリティが出ない。確かにブースじゃないからノイズも入るし、きっちりとしたドライな音は録れないけど、別にそれでもいいじゃないかと。好きな音がいい音なわけで、きれいに録れた音がいい音ってわけじゃない。それよりもこの曲では、グルーヴだったり雰囲気だったりニュアンスのようなものの方が絶対大事だと思ったから」

--ほかにそういうやり方してる人っているんですか。

「いると思いますよ。レイ・ハラカミさんの<owari no kisetsu>(細野晴臣のカヴァー。『LUST』収録)はハラカミさんが歌ってるんですけど、それは普通にデモでパソコンの前で歌ったって話ですよ。バンドでも、演奏と一緒に歌ってるオケと、歌を別に録るのとでは、全然ノリが違いますからね。だからデモの段階で一緒に歌ってないと、ノリが伝わらないんです」

--なるほど。いまお話をお聞きしたところ、今回のテーマのひとつは「生々しさ」ということでしょうか。

「うん。リアルっていうか。写真っぽいんですね。パッと撮ったそのまんまって感じ」

--写実的な。そういう音にしたかった。

「だし、歌詞も。たとえばこれ(目の前にあったほうじ茶のペットボトル)を撮っても、写ってるのはほうじ茶しかないけど、なぜ撮ったのか、なぜそこにほうじ茶があったのか、写真1枚からいろいろ想像を膨らませるじゃないですか。ただのほうじ茶の写真なのに。いろいろなものを隠喩できるというか。歌詞もそういうものにしたかった。自分の当たり前の日常をパッと歌うことで、いろんな人が自分の日常と重ねることができる。そんな感じの余白があっていいと思った。音も、スタジオにみんなが集まって、ここで録っているんだってリアリティを出したい。『DocumentaLy』ってアルバムを作った時の感覚とはまた違うリアル性っていうかね」

--対象物の背景にあるものを想像させる、という意味では絵画がそうですけど、絵画だと寓意性が強すぎるということでしょうか。

「もっとリアルな方がいいですね。だから俳句に近いかも」