INTERVIEW

Special Interview Vol.1 4/6

--写真で背景まで想像させるのって、相当な腕がないと無理だと思うんですよ。それはエンジニアの腕だったり?

「僕は歌詞だと思うんですよ。音から得られる情報って…みんな聴く環境が違うじゃないですか。流れてくる場所によって、その感じ方が違うわけだから」

--確かにそうですね。

「歌詞と音があいまって歌になって、歌がもつエネルギーが写真のように感じられたらいいなと思いました」

--今回歌詞はますます言葉少なになって。どんどん削ぎ落とされてる感じですね。

「この曲で一番時間がかかったのは、アタマの♪レシートは捨てた♪までなんですよ。そこができたら、あとは1日半で書けたんですけど。そこが出てくるまでが大変で。別にたいしたこと言ってないんですよ、あそこって。ただの情景描写で。ぶらっと歩いてコンビニに行って立ち読みして。そのまま出るのもなんだから130円で缶コーヒーを買って帰ろうか、みたいな。レシートいらないけどもらったから捨てた、という。誰もが経験するような歌詞なんですよ。それをリアルに歌うんだけど、その人物の感情とか、心情みたいなものは聴き手に委ねてるわけです。コード感とメロディとその後の展開で。♪捨てた捨てた捨てた♪って何回も繰り返すことで、なんかあるんじゃないかと考えさせる。そのうえで♪さよならはエモーション♪って歌うことで、その人物の感情や心情が聴く人のそれと繋がっていく。それって音楽の楽しみ方のひとつだし、僕が80年代90年代に聴いてきた松本隆さんとか来生たかおさんとか伊勢正三さんとかの曲から感じている”余白感”、松任谷由実さんから感じるリアル感、手を伸ばせば届く距離感…に通じるものがあるんじゃないかと思ったんですよ。タイトルの<さよならはエモーション>では、どこか昭和感を出したかったし」

--松本隆や松任谷由実より、もっと不親切というか余白が大きい気がします。

「ああ、そうかもしれないですね。なんか、なんてことのない写真に惹かれちゃう感じってあるじゃないですか。CDのジャケ買いとかもそうだけど、それに近い気がするんですよね。感覚で」

--「レシート」って言葉は日常的すぎてあまり歌詞では使わないと思うんだけど、そういう、ある意味で即物的でドライな言葉が、歌い回しやメロディやサウンドやリズムによって、俄然詩的な奥行きや感情の陰影を帯びてくる。見事だと思いました。

「この一節がなかなかできなくて、苦しんで。やっとこの歌詞ができたとき、思わず写メしちゃいましたもん(笑)。それぐらい嬉しかった。なんでこんなに悩むのかっていうことも考えるわけですよ。直感的にメロディと一緒に言葉が出てくる時もあるわけで。♪バッハの旋律を夜に聴いたせいです こんな心♪はメロディと一緒に出てきてる言葉だし。初期の頃の曲ってそれが多かったんですよ。それが一番健全だと思うけど、いつもそういうわけにもいかない。にしたってなんでこんなに毎回悩むんだと」

--どうしてですか。

「本来、歌詞は歌詞だから、言葉だけで成立しなくてもいいんですよ。メロディに乗って、歌として成立していれば、意味なんて別にどうでもいい。だけど、僕は歌詞としても、詩としても機能してほしいって、どうしても思ってしまうんですよ。だから、読んで“どうも意味がわからないな”とか“字面がなんかリズムがおかしい”とか“面白くないな”と思うとダメで。メロディなしで読んでもちゃんとリズムとして気持ちいいし、面白いものになっていないと納得できない。そのバランスをとるのが本当に自分の中での葛藤で。歌詞としてだけ書くなら当て勘で書けるし、適当に歌えるわけですよ。それに違う言葉をはめていけばいいだけで。でもそれじゃ満足できないから。そこがいつも悩んでるポイントなんです」

--言葉遊びだけじゃ済まないと。

「特にこういう風に、シングルとして世の中に発信する曲は、たくさんの人に聴いてもらう場で歌う機会のある曲に関しては、神経質になりますね」

--言葉遊びとか語呂合わせとか語感とか発声した時の感覚とか、そういうことで歌詞の言葉を決める人は多いと思うんだけど、山口君のように言葉のひとつひとつに意味と文脈、背景を込めながら歌詞を書くのもまた、大変な作業だと思います。

「……オタクですね(笑)」