アーティストと出逢うキッカケは様々だが、夜を漫遊し続けてきた(?)僕にとって、やはりバー&クラブで友人に紹介してもらうのが自然である。だが、深い時間でみんな酔っぱらっていたり、音楽がガンガン暴れていてお互いの声が聞き取れなかったりすると、残念な結果になることもある。 実は柴咲コウちゃんとは、逢うけど挨拶だけという“恐怖の悪循環”にはまっていた。

飲み納めに寄るバー(ということはかなり酔った状態)で「あ、コウちゃんだ」と思っていると、高橋幸宏と素敵で親切な喜代美夫人が「あ、森さん、紹介するねっ」と、コウちゃんのいるダーツ・コーナーに連れて行ってくれるのだが...すでに4回目の紹介だったりするのである。その上、僕はいつも泥酔中で「ごめんネ、この前は酔ってて...ヘラヘラ」と意味もなく“謝りモード”に入っていて、次に逢ったらまた今夜のことを謝ってしまうだろうなぁと確信するほど、すでに呂律は回らないのであった。だからプロデューサーの谷中君に「コウちゃん、トリビュートに誘ってみましょうか?」と提案された時、僕の顔は“恐怖の悪循環”から脱却できる喜びに満ち溢れていたに違いない。


PSY・S(サイズ)とは、サウンド・クリエーターの松浦雅也とヴォーカリストCHAKA(安則まみ)のポップ・ユニット。進化するコンピューターと共に、1985年から1996年までアート性の高い独自の活動を展開した。
 松浦君とは好きな音楽や言葉の美意識に共通項がたくさんあって、一緒に作品を作っていてとても楽しかった。好きな音楽というのは、例えば1970年代のプログレやグラムロックであり、言葉として言えば、例えば「絨毯にこぼしたコーヒーの染みが地図に見えて、実はそれが18世紀の海賊が宝物を隠した場所だった」という様な(よくわかんない?)アドベンチャーを愉しむ意識である(笑)。そう、そんな例を挙げるよりこの歌詞を味わってもらえば、それが一番いい。


柴咲コウに『遊びにきてね』をお願いしたのは、かなり意表を衝く選曲だったかも知れない。だが、音楽の中でシュールな世界観をどこまで構築できるかという挑戦的な歌詞をリメイクできるのは、圧倒的な“個”でありながら、だからこそ“世界すべて”にも成り得る女神、柴咲コウしかいないと思ったからである。
 CHAKAのが俯瞰的で無機質でジェンダーを感じさせない歌だったのに比べて、コウちゃんのはまるで耳元で囁かれているように、近い。シュールなフレーズだらけなのに、もう彼女の部屋にいるようなリアルさが漂う。谷中セッティングであるsugiurumnのサウンドが、夢と現を隔てる鉄条網を除去してくれた。ありがとう。