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【Vol.5】

おう、まだ続いていたのか、という気もする当記事の更新ですが、確か前回は2枚目の「Hep Cats Jump Again」まで行きましたかね。それでようやく話はビクターさんから初めて出すことになった、3枚目の「Stompin' & Bouncin'」に至る、とこういうわけですね。何回か前にも書きましたが、これはコネの成せるワザでして、トランペットの名取

氏の知己の中の、あれイトコだったっけな、嫁さんの親戚だったかな、何回聞いても忘れちゃうんですが、そのH前氏というのが、ビクターのY川氏の非常に仲の良い友人でして、こういう変わったバンドがあるよ、てなことから、話が始まったわけですね。まあ、変わったバンドと申しましても、スウィンギン・バッパーズ、これ別にそう変わった名前でも無いですよ。そりゃ「ゲロ金魚」とかとんでもない名前のバンドは沢山ありますからね。ちょっと脱線しますが、今でこそこの名前が間違って載るということは余り無いですが、昔は、特に80年代の前半は相当にひどい間違いとかありましたね。ぴあとか当時あった「シティロード」という雑誌とかに、「スイソキン・パンパース」というオムツみたいなものから「水銀バッタ」というパンク風のものまで、ひどい誤記が頻発しておおいに悩まされていたものです。「こんばんわ、水銀バッタです」どんな音楽をやるバンドなんでしょうね。はい、脱線終了。

で、Y川氏がヴィヴィッドの2枚を聞いたり、ライヴを見たりしているうちに、こりゃうちの会社から出したらどうなのか、という実に無謀なことをたくらんで、H前氏→名取氏というルートで我々に話が来たわけです。初めて会った時のことは、もうまるで覚えていませんが、何回か会ううちに得た印象は、「こんなにシャツのボタンを沢山開けている人は生まれて初めて見た」ということだった様に記憶しています。大体、今でもそうですが、Y川氏はほとんどアロハを着ているのですが、その第一ボタンが閉まっているのは見たことが無い、第二ボタンが閉まっているのも見たことがない、第三ボタンも無い、第四ボタンは年に4回ぐらいは閉まっている、第五ボタンは年に20回ぐらい開いている、年に2回ぐらいは陰毛が見えている、あっ、お食事中にすみませんでした、というぐらいの人物なんですが、それで話がグズグズと進むうちに一回Y川氏の上司と面談していただけないか、ということになりビクターにお邪魔するわけですね。何という方かもう忘れましたが、確か松田聖子さんとかのレコード制作を担当していた方ですから、それはもうウン十万枚というヒット作を次々と生み出した凄い方ですが、一方、こちらは高円寺次郎吉に80人ぐらいの客を呼び寄せるという、まあこれはこれで凄いのかどうか良く判りませんが、とりあえず活躍しているフィールドが全然違う、ということがありますね。あと、もう一つ松田聖子さんともなると、これはもうゲイノウ界まっしぐらですが、こちらはブルース界真っ只中でして、はっきり言って、おびえていた、と言っても過言ではないですね。楽屋にいつも黒服サングラスの人達が何人かいて、アニキ、ガサ入れでテッポーダマで、とか喋っていたらどうしよう、香港に売られたらどうしよう、ゴルフ会員権の連帯保証人にされたらどうしよう、不安が不安を呼び、とても怖くなってきまして、結果、「餓鬼も人数」ということわざがありますが、意味は「どんなにつまらない取るに足らないものでも数の力はあなどりがたいことを言う」とことわざ辞典に出ていますが、そのことわざ通りに大勢で押しかけることにしたわけですね。何人ぐらいだったかなあ、たしかその後千駄ヶ谷の駅前の飲み屋で、1テーブルを囲んで飲みながら討議したので、6人ぐらいいたんじゃないか、という気がしますが、我々はブルースをやっています、歌謡曲はやりたくありません、それぞれに昼の生活がありますもんであまり売れてもらっては困ります、休みがなかなか取れないというのもありますのでレコーディングは飛び飛びにやることになりそうです、長期休みを揃って取るというのは退職後まで先ずムリですので、発売記念全国ツァーというのは30年ぐらい先でないとできません、という様なこちらの都合を一方的に話して帰ってきた様な気がします。で、前述の飲み屋に行って、おい、どうする? 俺たちさこれ騙されてるんでねえの? ビクターはきっと何か企んでるのだろう、という大疑心暗鬼飲み会となったわけですが、結局レコーディングすることに決めたのは、バリトンの三平が言った次のひとことだったのです。「あのさ、俺たち何やりたいかっていうことを良く考えてみると、結局 ビクターさんのお金で遊びたい、ってこういうことだよね?」

ふむ、はなはだ失礼な話ではありますが、確かにおっしゃる通り。パチンコでもゴルフでも釣りでもフィギュア人形でも、世の中で遊ぶには、ほとんどの場合自分でお金を出すわけですが、これは人様のお金で遊ぶという滅多に無いチャンスでして、おう、そうだそうだ、三平は珍しく良いことを言った、得点だ得点、ということになり、レコーディングにこぎつけたわけですね。Y川氏は大変だったと思いますよそれは。

きっとそんなこんなで血圧とか体温が上がっちゃって、シャツのボタンを閉められないんでしょうね。

2007.5.17 UP
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