川畑要と堂珍嘉邦が出逢い、デュオを組んだことは神の仕業としか思えない。

二人の歌の上手さについては語るまでもないが、とにかく声がハモるのである。たとえどんなに素晴しいヴォーカリストを二人選んでも、デュエットした時に歌が溶けあうとは限らない。声の質や厚みや息遣い、沈黙の音などが微妙に作用することによって感動的なハーモニーは生まれるのだ。つまりCHEMISTRYは、1+1の単純な数式が、そこに運命が紛れ込んでしまった特殊な科学変化によって=∞に近づいた奇跡のデュオなのである。

去年、CHEMISTRYに誘っていただいて『Wings of words』という詞を書いた。“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”のオープニングにも使われた作品である。

その際スタジオにもお邪魔したが、“歌う”ということに対する彼らの真摯な姿勢に心を打たれた。スタッフ・サイドからOKが出ても自分達が納得するまで歌い続けるのは当然としても、様々なアイディアを試みたり、メロディー以外の楽器的なコーラスを凝(こ)ったり、と、そばで見ていて“清々しさ”を感じたのである。直向きな気持ちがあるからこそ“声”は“歌”になり人の“心”に響くんだと、つい忘れそうになる当たり前のことを、思い出させてもらった。


『月の舟』は18年前の作品になるが、池田聡の詩情溢れる歌唱力のお蔭もあって音楽関係者にもファンが多い。槙原敬之クンは98年にリリースした『Listen To The music』というアルバムでこの歌をカヴァーしてくれているし、今回のプロデューサーの谷中君も「CHEMISTRYの『月の舟』、聴きたいっすよね」と大ノリだった。

実は池田聡のファンには有名らしいが、僕がこの曲でカミサンをクドいたという、作詞家としてあるまじき、怪しい噂がある。真相は秘密だが、この詞の主人公の女性と当時のカミサンの状況が似ていたのでレコードをプレゼントしたことは事実だ。そして、もうひとつ、結婚パーティで弟(Picassoというバンドのキーボーディスト)が弾いてくれた『月の舟』の柔らかな旋律が今も僕達の心に響いている事だけは、白状しておこう。