アルバムのプロデューサーである谷中敦とは、4年程前に高橋幸宏宅のパーティで知り合った。東京スカパラダイスオーケストラのメンバーは、例えばベースの川上クンやギターの加藤クンはもっと前から知っていたのだけれど、谷中とはその夜が初対面だった。

彼がちょっと遅れて、すでにほろ酔いでリビングに入って来た瞬間、ユッタン(幸宏氏の事です)が、透かさず僕に言った。

「彼、谷中クン。朝まで飲むし詩も書くから、森クンの担当!」


ユッタンの絶妙な仲人ぶりによって交際(?)を始めた谷中からはまず、“携帯詩人”の名に恥じない「瞬間の息遣いをリアルに刻み付けた詩」のメールが連日のように届いた。それに呼応して、僕は南青山の曼荼羅でやっていた『眠れぬ森の雪之丞』というポエトリー・リーディングのライヴにゲストとして彼を招き、親交を深めていったのである。(因みに、その回は『月の舟』の池田聡もゲスト・シンガーとして参加してくれていた)


同じ干支の一回り下で同じ山羊座で同じA型の谷中敦は、音楽界に仲間が多いことで有名である。噂に違(たが)わず、飲む機会が増えるにつれて二人を“ターミナル”にして互いの友人が行き交い始めたある夜、「最高のヤツがいるんですよ」と谷中の絶賛を浴びて登場したのが、ケツメイシのRYOJIだった。

失礼なことに僕はその時、まだケツメイシを聴いたことがなかった。だが、シャイな口調でありながら辛辣なジョークや繊細な感性が光るRYOJIの会話のセンスに魅了され、後日、CDや詩集を交換し、互いを再確認しあった次第である。

今さら言うまでもないが、RYOJIはタダ者ではない。ケツメイシのソングライターとして数々の名曲を生み出してきたのは周知の事実であるが、ヴォーカリストとして、僕は彼の歌に“永遠の少年”を感じる。眩しすぎる未来を睨みつけて、不覚にもちょっと目を逸らしてしまった一瞬の恥じらいを今も拭い去れない真夏の少年。“永遠の少年”の先輩である(?)高橋幸宏の『青空』をRYOJIがカヴァーしてくれたことは、本当に嬉しい。しかも、セルフカヴァーとなるユッタンとのデュエットなのだから、最高としか言いようがない。

幸宏に紹介された谷中がRYOJIを連れて来て、94年に書いた僕の詞で素敵なセッションが行われた。そう、このアルバム自体が“ターミナル”のように、人と人を、過去と未来を、瞬間と永遠をつないでいる気がする。


思い返せば何年も前に、何か企画があったわけではないのに、突然谷中が「オレ、雪之丞さんの“幹事長”ですから!」と宣言した夜があった。

テナー・サックスが似合う情熱的な詩人は、未来の予言者でもあるらしい。