早川義夫さんが歌を歌わず、中学生の僕がジャックスというバンドに出逢わなければ、森雪之丞という作詞家は存在しなかった。

流行歌やGSで何気なく聴いていた“歌の中にある言葉が”、こんなにも傲慢に、こんなにも激しく人の心を揺り動かすものなのだと、僕は初めて早川さんから教わったのだ。

『からっぽの世界』『われた鏡の中から』『裏切りの季節』『堕天使ロック』など、ジャックスの曲名を羅列しただけで「あ〜雪之丞、影響受けてるなぁ」と指をさされても、僕は喜んで否定をしないだろう。『EYES LOVE YOU』のノートで書いたが、FLOWのKOHSHIがhideから渡された同じバトンを、あの日僕は間違いなく早川さんから受け取ったからだ。

ジャックス解散後、ソロ活動、制作ディレクターを経て、しばらく本屋を営まれ、1994年、23年ぶりにまた歌い始めた早川さん。再始動されたお蔭でライブのゲストにお招きいただいたり、“眠れぬ森の雪之丞”で歌っていただいたりするうちに「詞を書いてくれませんか?」と夢のようなお誘いを受け、感激と緊張と興奮の中で書きあげたのが『天使の遺言』である。


お気づきの方もあると思うが、『Words of 雪之丞』の中で、実はこの曲だけがシングルとしてリリースされていない。それでも選んだのは、僕自身この詞が好きなだけでなく、このような経緯があったことと、曲選びの時初めて聴いた斉藤和義クンがとても感銘してくれたことが大きい。

今回斉藤クンには逢えなかったのだが、スタッフの話によると彼は早川さんのライブに伺い、大きな刺激を受けて、打ち上げの乾杯にも加わっていたらしい。僕が早川さんからもらったバトンの秘密を、トリビュートに参加してくれたことで斉藤クンに教えられたとしたら、それは僕にとっても光栄なことだ。


さて、このノートも7つ目になった。所詮はたかが1人の作詞家の、高だか30年の思い出話である。が、ここまで書いてきて僕は今、出来事という“点”が巧妙に繋がれて運命という“線”になっていく陰謀のような偶然に、眩暈に似た快感を感じている。

今回ボーナストラックとして収録することになった『熟したトマト』。生意気な高校生バンドが自費出版で作った17cm33回転のコンパクト盤レコードを持って、17才の僕はURCレコードのドアを叩いたのだった。知り合いのフォークシンガー斉藤哲夫さんの紹介で、当時ディレクターだった早川義夫さんに逢うために...。それは1971年のことだ。