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「ABRACADABRA LIVE ON THE NET」レポート

「本当にみんな見てるのかな? ばかに静かな夜です。見てますか?」 最後の一曲に入る前、櫻井敦司(vo)はフロアに向かってこう語りかけた。たった今、ニューアルバム『ABRACADABRA』を引っ提げた熱いステージを展開したばかりなのに“静かな夜”とは不思議なものだ。観ている側は最新形のBUCK-TICKを目の当たりにして、こんなにも興奮しているというのに。ステージにまでこの熱が伝わらないのがなんとももどかしい。画面の向こう側、そんな想いを抱いた人たちが多かったのではないだろうか。

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33回目のデビュー日9月21日に22枚目のオリジナルアルバム『ABRACADABRA』をリリースしたBUCK-TICKが、それを記念して無観客での初の無観客生配信ライブ「ABRACADABRA LIVE ON THE NET」を開催した。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、5月・6月に予定していたファンクラブ会員&モバイルサイト会員限定コンサートツアーの開催を延期した彼らが、生演奏する姿を見せるのは今年初のこと。無観客ライブの開催は1991年のWOWOW開局記念番組でライブ中継を行なって以来29年ぶり。生配信という形で全世界に発信するのは今回が初のことである。全員が最前列という好条件で、リリースしたばかりのアルバム曲が発売当日にライブ演奏で聴けるのだ。加えてライブ前にはアルバム『ABRACADABRA』の魅力を語るメンバーインタビューも1時間たっぷりと放送。ますます期待が高まった。

20時を少し過ぎた頃、インタビューシーンからライブ会場のステージ袖の映像に切り替わった。薄暗い中にギターが並んでいるのが見える。その前を歩くスタッフの足元。すぐそこにある息遣いに、こちらがライブをするわけでもないのに、なぜだか緊張が高まってきた。ああこれは、暗転したライブ会場でメンバーを待つ時の気持ちとなんら変わりがない。やがて、キラキラとSE「PEACE」が流れ始めた。スクリーンに浮かぶ“ABRACADABRA”の文字。いつものBUCK-TICKツアーの始まりと同じように、クオリティの高いオープニング映像がお茶の間を一気に『ABRACADABRA』の世界へと変えた。生ライブ配信とはいえ、観ている側の環境はいつも通りの自宅の風景で、ちゃんとステージに気持ちがついていくのかどうか始まるまで想像できなかったが、それは杞憂なことだった。「ケセラセラ エレジー」のイントロで紗幕が落ちると、軽やかにお辞儀をしてみせる櫻井。華やかに広がるエレクトロサウンドの中を縫うように走る樋口豊(B)のベースライン。エレガントな帽子を被って艶やかな声で歌う櫻井と、中指立てながらコーラスする今井寿(G/Vo)との対比や、3度目のAメロでは二人がユニゾンで主メロを歌うなど、この1曲だけですでに見どころ満載だ。続いて「URAHARA-JUKU」では、赤いライトが赤色灯のごとくステージを染め、緊迫感を煽る。ヤガミ・トール(Dr)のずっしりとした4つ打ちリズムに樋口のベース、さらには星野英彦(G)のリズムギターも加わり、画面を通しても伝わってくる音の迫力に圧倒された。「Hello、みなさん元気? 楽しんでください、アブラカダーブラ」。短い櫻井のMCを挟んで、「SOPHIA DREAM」へ。今井が奏でるアラビア音階のメロディと、櫻井と今井のツインボーカルがサイケデリックな浮遊感を醸し出す。ヤガミが打ち鳴らすトライバルなリズムと、イントロの星野のコーラスで異国へと誘われた「月の砂漠」は、何よりバンドアンサンブルが美しい。黄金のマスクを手にした櫻井が情感豊かなボーカルを聴かせた。「Villain」では、ボーカルにエフェクトをかけ感情のない声で淡々と言葉を重ねる今井と、激しい感情をむき出しにして歌う櫻井とのツインボーカル、そして画面越しでもその音圧が伝わってきそうなほど迫力あるサウンドに圧倒された。その熱をクールダウンさせたのは「凍える」。歌詞をなぞるように表現する櫻井の表情とパフォーマンス。その歌はゾクリとするほど冷ややかで美しかった。それに寄り添うバンドサウンドの優しさが身に沁みる。その後、照明の落ちたステージで今井のギターソロで空気を転換すると、昭和歌謡調の「舞夢マイム」へ。男女一人二役を帽子一つで演じ分ける櫻井のパフォーマンスは活き活きとしていて、一挙手一投足に魅了される。昭和の空気はそのままに「ダンス天国」へ突入。派手なライティングでめくるめく倒錯の世界を楽しんだ後は、バンドサウンドにデジタル色が加わりよりダンサブルになったシングル曲「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」「堕天使 YOW-ROW ver.」の2曲を披露した。

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今回のステージ構成は、アルバム全曲を曲順通りに披露するという、BUCK-TICK史上初の試み。『ABRACADABRA』は、音を繋ぎながらメンバー全員で曲順を決めたという作品だからか、こうしてアルバム通りの流れでライブが構成されていてもストーリー性や緩急の具合など、とてもスムーズで心地よい。「MOONLIGHT ESCAPE」は、よりシンプルなライブアレンジで、櫻井の低音を生かした伸びやかなボーカルが映える。広がりのあるクリアなサウンドは、月光で明るく照らされた夜の印象を描いていた。メロディはとても優しいが、その実重いテーマを込めたこの歌を歌う櫻井の目は鋭い。歌い終わりとともに腰を落として前を見据えるその目は強烈な印象を残した。月夜を突破し宇宙まで、ギュイーンと上昇していくような今井のギターを合図に、アルバムいちキャッチーな「ユリイカ」へ。弾けるように軽快な8ビートに乗せて、画面の向こうへ届けとばかりに“LOVE”と“PEACE”を投げかける。櫻井は時折耳の後ろに手をやって、見えないオーディエンスの声を聴こうとする仕草を見せた。その声は聞こえずとも、きっと画面の向こうでは“LOVE”と“PEACE”の大合唱が沸き起こっていたに違いない。ラストはスモーク立ち込めるステージで、じっくりと聴かせた「忘却」。儚さと力強さ、相反する印象を併せ持ったボーカルと、それに絡み合う2本のギターのアルペジオ、そしてボトムを支えるリズム、すべてが一体となって聴く人の感情を揺り動かす。溢れ出る思いがオーディエンスの心を満たしていくように、ステージから流れ落ちたスモークがフロアを白く染める。その光景は息をのむほどに美しかった。

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アンコールで再びメンバーが登場すると、今井がスマホでフロアの撮影を始める。その姿を追って撮影する樋口の様子も、いつものライブと同じ風景だ。『ABRACADABRA』の世界観でがっちり固めた本編に続くアンコール、一体何を聴かせてくれるのだろうと思っていると、星野と今井がアコースティックギターを手にした。ヤガミのドラムイントロから1曲目が始まった。そこに樋口のベースが入ってきても、まだ何の曲か判別がつかない。今井、星野のギターのリズムが加わり全貌が見えてきた。「Living on the Net」のアコースティックバージョン!この日のライブタイトルに、そのヒントがあったのか。1996年にリリースしたアルバム『COSMOS』の収録曲だが、当時よりも今の時代にフィットする歌詞かもしれない。 Aメロのザクザクとしたサウンドはアコギとコーラスで。そこに櫻井がケチャを被せてより印象が増した。よりシンプルになったサビはメロディーを際立たせていた。続いてスパニッシュな「Cuba Libre」へ。曲中、櫻井が打ち鳴らす手拍子も配信だとリアルに聞こえてくる。インダストリアルナンバーの「ICONOCLASM」では今井のドアップを見せるカメラワークも。そして“人生は愛と死”と歌う「Memento mori」へ。イントロでは櫻井が一人ずつメンバー紹介。新曲ばかりで構成した本編での緊張感から解放されたように、アンコールでは砕けた表情も見せるメンバー。カメラ目線をキメる星野や樋口、櫻井のボーカルはいつもより少しコブシが効いていて、琉球音階に合わせて踊るカチャーシーも滑らかだ。本来だったらオーディエンスも一緒になって踊っているところだろう。そして冒頭の櫻井の言葉である。「本当にみんな見てるのかな? ばかに静かな夜です。見てますか?」。寂しさを滲ませる。「またいつか、一緒の空間で遊べることを夢見て、あと一曲で今日は終わりにします。また会いましょう。どうもありがとう。LOVE」と続けると、ラストの「独壇場Beauty -R.I.P.-」へ。アッパーなロックチューンでありながら、レクイエムでもあるこの曲で華やかに本公演を締めくくった。櫻井がステージを去った後もアウトロを鳴らし続けた4人は、息を合わせて最後の音をキメる。「また会いましょう!ピース!!」。今井の声が響くが、その姿は映っていなかった。これも配信あるあるだろうか(笑)。樋口も「ありがとう!ピース!」と続く。今度はバッチリとカメラに収まっていた。印象的だったのは、ステージを去る前にフロアに向けてピックを投げるメンバーの姿。オープニングSEの映像や、アンコールでの写真撮影もそうだったが、まるですぐそこにオーディエンスがいるかのような、“いつも通り”のメンバーの立ち居振る舞いが何より嬉しかった。歓声は届かない。投げたピックも届かない。しかし、この環境下の元でメンバーとオーディエンスとの繋がりはより一層強くなったのではないだろうか。両者の想いの種となるのは、櫻井がインタビューで何度か投げかけた「I miss you」という言葉だろう。

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このコロナ禍で配信ライブもすっかり定番となった。各所様々な創意工夫が見られるが、今回のBUCK-TICKのステージは特異なギミックを使うことなく、シンプルなスタイルで新作の楽曲群を演奏することに徹した。だからこそ楽曲のもつパワーや、表情豊かな歌声に激しく胸を打たれたのだろうと思う。

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厚底のブーツでゆっくりとエフェクターを踏む足元や、バスドラのペダルを踏む足元、魂込めて歌う鬼気迫る表情を間近で観たり、カメラ目線の少しおどけたメンバーの姿など、配信映像ならではの視覚的アプローチも堪能することができた。また、観る環境をカスタマイズできるのも配信の面白味だろう。リアルタイムではPCから出る音そのままを楽しんだが、アーカイブ期間はヘッドフォンを繋いで鑑賞してみた。微かに聞こえるギターの弦の擦れる音、咳払いや息遣い、ツインギターの掛け合いは右脳左脳をグルグルと駆け巡るし、ベースやドラムの低音は頭の後ろを響かせる。櫻井のボーカルは額のど真ん中をまっすぐに貫く。よーく耳を攲てると曲間の静寂の中、仕事をするスタッフの声も聞こえたりする。それはなかなか知ることのできないリアルな現場の音だった。

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そして9月26日より全国23会場を巡る「TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN」がスタートした。今回の無観客生配信ライブがライブハウスツアーを踏襲したものだとすれば、こちらは今井がインタビューで語っていたように“作り上げる”形のステージで、『ABRACADABRA』の世界観をホールツアーさながらのスケール感で楽しむことができる。初日の東京・立川ガーデンステージ公演を観てきたが、フロアの後方にはPA卓が設けられ、ツアーと同じ音響や照明演出で臨場感溢れる空間を生み出していた。メンバーがステージに上がる時、曲が終わる時、通常のツアーと同じようにフロアからは拍手が沸き上がる。“アブラカダブラ”愛の呪文が、観る人の笑顔を作っていた。初日公演が終わった後、今井がSNSで「立ってもいいからね」と発信した。このツアーの楽しみ方も、回を重ねるごとにまだまだ変化していくのかもしれない。それを体感するのもまた醍醐味だ。そして、またいつか元気に笑顔で相まみえ、「I miss you」の種が「We love you」へと花開く瞬間を、会場いっぱいにピースサインが広がる光景を、必ずや目撃したいと心に誓ったのだ。

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Text:大窪由香
Photo:田中聖太郎

BUCK-TICK『ABRACADABRA』
2020年9月21日(月)リリース
完全生産限定盤A (SHM-CD+Blu-ray) VIZL-1787 / ¥5,500+税
完全生産限定盤B (SHM-CD+DVD) VIZL-1788 / ¥5,000+税
通常盤 (SHM-CD) VICL-70244 / ¥3,000+税
完全生産限定アナログ盤(2LP) VIJL-60228~9 / ¥4,500+税
完全生産限定カセットテープ VITL-70244 / ¥2,800+税

『ABRACADABRA』スペシャルサイト>>

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